ホームセミナーセミナーレポートダイバーシティ研究会 2023年8月25日

セミナーレポート

ダイバーシティ研究会

京セラのダイバーシティ&インクルージョン
~誰もが「自分ごと化」をできる組織を目指して~

京セラ株式会社 コーポレート総務人事本部 ダイバーシティ推進室 D&I推進課 責任者 森 麻里子 氏
株式会社子育て支援 代表取締役 一般社団法人ビリーバーズ 代表理事 熊野 英一 氏

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多くの企業がまさに経営戦略のひとつとして積極的に取り組んでいる「ダイバーシティ&インクルージョン」。今回は、京セラのダイバーシティ推進責任者である森麻里子氏をお迎えし、同社のダイバーシティ推進のこれまでと現在の取り組み、更にはこれからの展望をご紹介いただくとともに、後半では京セラをはじめとした数多くの企業のダイバーシティ支援を行ってきた(株)子育て支援代表の熊野英一氏との対談により、これからのダイバーシティ推進について忌憚ない意見交換をしていただきました。

【PART1】 事例紹介 「京セラのダイバーシティ&インクルージョン ~誰もが『自分ごと化』をできる組織を目指して~」
京セラ 森 麻里子 氏

「全従業員の物心両面の幸福(しあわせ)を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という当社の経営理念や、創業者である稲盛和夫が残した「心をベースに経営する」という言葉は、京セラの原点であり、創業時から今も変わらず受け継がれています。これらはまさにD&Iに深く通じるものがあると言えます。また、京セラの経営を特徴付けるものとして、稲盛の実体験や経験則から生まれた経営哲学「京セラフィロソフィ」があります。これは「人間として何が正しいか」を判断基準として、誰に対しても恥じることのない公明正大な経営、業務運営を行っていくことの重要性を説いたものです。私達は、この京セラフィロソフィを普遍的な社員の心のよりどころとして、大切なものと考えています。京セラのダイバーシティ&インクルージョンのキャッチコピーである「DIVERSY & INCLUSION &“YOU”あなたも、ひとつの、多様性。」には、ひとりひとりが多様性を持っており、全く同じ人は存在しない。ダイバーシティ&インクルージョンは特別な誰かのためではなく、”あなた”という多様性を生かすための言葉であり、自分も含めたすべての人に関係あることだというメッセージを通して、D&Iを「自分ごと」として考えてほしいという思いが込められています。

京セラでは、2006年から女性活躍推進活動を組織化し、各拠点の女性活躍推進委員会を中心に活動を展開して来ました。「両立支援制度の拡充」「女性のキャリア意識向上」「女性責任者の増加」など、一定の成果を実現し、2019年からは女性だけではなく全社員を対象に「多様な人材の活躍」を推進するべく、ダイバーシティ推進室を立ち上げ、現在に至ります。
「社員ひとりひとりがもつ個性・価値観を尊重し、多様な人材が働き甲斐をもって活躍できる職場環境を実現することで、将来にわたって挑戦し成長し続ける、活力と魅力にあふれた企業となる」ことを当社のダイバーシティ推進活動が目指す姿としています。
経営トップと、工場・事業所の間に、本社の3つの部門(人事・人材開発部/総務・環境安全部/ダイバーシティ推進室)が入り、それぞれが連携しながら、ダイバーシティ推進に取り組んでいます。また、工場・事業所には拠点ごとの労務部門があり、その中にダイバーシティ推進委員会が存在しています。現場からの意見や要望を吸い上げ、全社施策へ提言すると共に、経営トップからの方針やメッセージを社員ひとりひとりに伝え、拠点ごとの実態に合わせた推進活動を行っています。そして、この推進体制により、社員が誰も取り残されないダイバーシティ推進を目指しています。

当社のダイバーシティ推進における重点テーマは以下の4点であり、各々のテーマ毎に様々な取り組みを進めています。

1. 多様性を尊重する風土の醸成

① トップと現場社員によるD&I座談会
多様な社員と会長の座談会を継続的に開催することで、現場社員の生の声を会長に届けると同時に、トップの想いを直接彼らにフィードバックする「対話」の機会を設けています。

② 全社D&I月間・啓蒙イベントの実施
毎年1月を全社D&I月間と定め、年毎にテーマを変え、集中的に啓発イベントを開催。例えば2021年には「みんなで考える両立!」をテーマとして、本日一緒にご登壇いただいている熊野英一先生による講演会を実施しました。

2. ジェンダーイクオリティの推進

① 女性活躍推進
全社的な啓発活動や各種研修などの施策を実施することにより、「女性社員のマインドセットとスキルアップ」「責任者側の育成意識向上」「全社員の理解促進」を目指し、活動の加速化を図っています。

② LGBTQに関する取り組み
当社では2020年より会社規定に「性的指向・性自認」について触れ、SOGIハラ、アウティングを防止し、また同性パートナーも社内上「結婚と同等」または「配偶者と同等」の扱いにするルールの見直しを実施しました。更に当事者が安心して働くことができる環境をつくるため、各種のセミナーを継続的に開催し、社員の理解促進を図った上で、LGBTQの理解者・支援者である「アライ」を増やしていくための取り組みに力を入れています。

③ 男性の育児参加推進
京セラ社員に向けたメッセージとして、社長との対談も取り入れた全責任者必須受講のオリジナル動画教育を実施。また、すべての社員がいつでも気軽に情報を得られるよう、男性の育児参加に関するイントラサイトを開設し、制度や育休経験者の事例紹介、イベント情報の提供を行っています。

3. 全員が働きやすい職場環境の実現

① 育児・介護・治療との両立支援
各種啓発イベント、その後のアンケートや座談会などを通して社員の生の声を拾い、制度の見直しや新たな取り組みに繋げています。女性の健康課題については、不妊治療に対する休職制度を設けるところから始まり、現在では月経の悩みから更年期に至るまで、フェムテック全般に視野を拡げていきたいと考えています。

② 障がい者の活躍支援
当事者だからこそ分かる課題や、その解決策、そして社員の理解促進のため、聴覚に障がいを持つ社員が中心となって運営するデフファミリーミーティングという会議を定期的に開催。施設や設備についても、マニュアル通りの対応のみでなく、社員のニーズに合わせた対応を各拠点が行っています。

4. ダイバーシティ推進企業としての発信力強化

① 社外ホームページ・SNSによる情報発信
ひとりひとりの社員の多様性にフォーカスした京セラらしさが伝わることを意識し、制度やこれまでの取り組みについても紹介しています。
*ホームページはこちら

② 社内ポータルサイト・社内報による情報発信
工場の製造現場で働く社員も多い当社では、紙媒体で発行される社内報「敬天愛人」が会社と全従業員がつながる重要なツールです。D&Iの社内イントラでは、全国の各拠点でも立ち上げられているオリジナルサイトの拠点ページにリンクをさせ、他拠点がどのような活動をしているのかを知ることが出来、各拠点同士が参考にし合っています。

また、各拠点では下記のような取り組みを実施しています(代表的な事例)。

・北海道北見工場: 子育て社員より子育てを卒業した世代が多いことから、独自に介護イベントを企画。また、厚労省の「精神・発達障害者しごとサポーター」講座を毎年実施継続するなど、障がい者支援にも力を入れている。
・鹿児島国分工場: 聴覚障がいのある社員が多く働く現場のため、2006年より自発的に手話教室を実施。工場全体でも、聴覚障がい者に気付いてもらえるようなバッジの作成や、車いすでも利用しやすい工場へと、ハード面での改善活動も行っている。
・滋賀蒲生・八日市工場: 今年で発刊15年目を迎える工場独自の活動報告誌を発行。滋賀3工場合同でのイクボス宣言の実施や、滋賀県ワークライフバランス推進企業への登録など、他の拠点に先駆けた独自の取り組みを推進。
・滋賀野洲工場: 部門を越えた交流の機会づくりや、車いすユーザー目線の動画撮影など、オリジナリティある社員主導の取り組みが特徴。
・神奈川秦野工場: 全社員が明るい気持ちになるように、花を植える活動を開始。イラストが得意な社員によるオリジナルのD&I教材も作成。
・神奈川横浜事業所: 子育て中の社員が多く、各職場を代表する8人の社員がワーキンググループを運営。障がい者用トイレを「みんなのトイレ」にリニューアル。事業本部長との座談会とコンパ(懇親会)を開催。
・京都綾部工場: 委員が毎月D&I一口メモを発信。委員おすすめのD&I関連書籍を休憩室に設置するなど、社員が身近にD&Iに触れる機会を提供。

以上のような拠点それぞれでの活動や、ダイバーシティ推進室との連携の成果として、2022年にはJobRainbow社の主催するD&I AWARDの地方企業部門でアワード賞を受賞しました。

京セラフィロソフィのひとつに「ベクトルを合わせる」という言葉があります。
「人間は、個として生まれ、自由に生きているのですから、いろいろな発想をする人があってもいいと思います。組織においても、各人がまったく自由な発想のもとに行動し、それでいて調和がとれているというのが最高の姿だと思います。しかし(中略)集団が機能し、成果を生み出すためには、その目指すべき方向が明確であり、その方向に集団を構成する全員の力の方向(ベクトル)を合わせなければなりません。ベクトルを合わせるとは、考え方を共有することです」
このように人間の多様性を尊重しつつも、考え方を共有し、ベクトルを合わせることの大切さが語られており、まさにダイバーシティ&インクルージョンそのものを表していると感じます。社員ひとりひとりがD&Iを自分事として考え、様々な人が渦の中心となり、京セラの至る所でD&Iの渦が成長してくことにより、他にはない、京セラらしい、D&Iのあり方が見えてくるのではないかと期待しています。

【PART2】 対談 「人的資本経営が叫ばれる時代のダイバーシティ&インクルージョン」
京セラ 森 麻里子 氏
子育て支援  熊野 英一 氏

Q1. 現場や拠点において多岐に渡る取り組みを展開して来た中で、ここに至るまでの苦労は?

D&I推進室創設当初、拠点でも何をすれば良いのか分からなかったようです。”各拠点にあわせた多様な取り組みを”というD&Iの方針に対して、「より明確な方針を出して欲しい」という声が多く上がっていた状況でした。

Q2. そのような状況の中で、現場が主体的に動き始めたと感じた瞬間やターニングポイントは?

現場の戸惑いの反応から、D&Iの方針やこちらの思いを直接会って伝えていく機会を設けることにしました。そうした取り組みを続けていくことで、徐々に”本気度”が伝わり、社員からの反応や相談が増え、一方通行ではなく、少しずつ共鳴が始まったように感じます。実際に、D&I推進室設立当初の2019年と2年後の2021年に実施したアンケートでは、「D&Iを全く知らない」という回答が20%から5%に減少し、「D&Iを知っており、かつ行動に移している」という回答が40%から70%に増加しました。
現場のダイバーシティ推進委員のメンバーは専任ではありません。日々の忙しい業務の中で、D&Iの取り組みをやらされ感ではなく自走出来ているのは、自分達が行っていることの意義が理解出来たことが大きく、徐々に軌道に乗って来たのではないかと感じています。

Q3. 京セラのD&Iの組織体制について改めて教えてください。

当社は、総務人事本部の中に、人事部や総務部、広報やダイバーシティ推進等が並列しています。人事部ではしっかり時間をかけて制度設計をしていくのに対して、D&I推進室では”まずやってみる”ことを大切にしています。人事部とは別組織であるからこそ、様々な提案がしやすい部分があるのではないかと思います。

Q4. マネジャー層の業績管理とD&Iはリンクしていますか?

トップや経営幹部に近い層には、企業がD&Iに取り組むことが社会的にどういう意味を持つのかが浸透している一方、日々の実績と向き合う中間層には経営とD&Iがどう繋がるのかがまだ腑に落ちていない方も多いと感じます。そのようなマネジャー層にD&Iも大切な経営戦略のひとつであることを伝えていくことが当社の課題でもあります。

Q5. 女性・障がい者・外国人を採用し増やしていくことの具体的な効果をなかなか理解出来ない方々もいるのではないでしょうか?

単にマイノリティのための優しさではなく、最終的に会社が持続的に成長し続けるための戦略であることを、データを用いながら様々な角度で根気強く伝えています。セミナー等も1回実施して終わりではなく、何度も繰り返し行っていくことが大切だと思います。

Q6. ダイバーシティ推進者の“孤独”を減らし、社内外に同士を増やすために参考になることは?

少ない人数の担当者によってダイバーシティ推進活動を行なっている企業も多いと思いますが、ダイバーシティ推進担当者のためのセミナーや集まりには積極的に参加し、横(社外)との繋がりを増やしていくことが重要だと思います。幸いにもD&Iは他社と順位を争うようなものではなく、他社と一緒に世の中をより良く出来ることが魅力でもあると思います。会社同士の繋がりを増やし、皆でダイバーシティを当たり前にしていくことが出来ると嬉しいですね。
ダイバーシティ推進には終わりがありません。それを大変だと思うのではなく、今の時代にこのテーマを担当出来ることで自身の世界も拡がるため、非常に前向きに取り組める仕事であると感じます。また、ひとつひとつの歩みは小さくとも、決して後戻りはないはずですので、諦めずに積み重ねていくことが大切です。今後も、是非多くの企業の皆様と連携できれば幸いです。

◎研究会を終えて

  • 研究会の内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    グラフ
  • 参加者の意見・感想は・・・

    ダイバーシティ推進担当者として、とても参考になったと共に、勇気をもらった。ダイバーシティには孤独が付き物というお話があったが、たしかになかなか周囲の理解を得られない時もあり、気持ちが落ち込むこともしばしばある。ダイバーシティに向き合う姿勢や切り口の多さにとても驚き、私自身も頑張ろうと思える機会だった。 京セラでは本部が推進しつつも、各拠点もかなり自律して推進しているところが印象的だった。事業形態等の違いもあり、全く同じように行うことは難しいが、参考にさせていただきたい。 弊社では、D&Iの必要性について経営層がよく理解し推進を後押ししてくれるが、現場の中間層の意識がついてこない場合があり、そのあたりの難しさを感じている。京セラの取り組み事例は非常に参考になった。 私は人事部門所属ではないが、現場ベースでどう意識を擦り合わせていくか、どんな思いを汲み取っていくかが大事になると思った。 森さんの「D&Iは後ろ向きな取り組みではない」という言葉に大きく頷き、活力を貰った。 女性活躍推進活動を含め、ダイバーシティの施策について、会社としては方針を立てているものの、具体的にどのようにすればいいのか、どこから始めればいいのか分からなかったので、京セラの地道な活動や施策事例を知ることができ、とても勉強になった。 具体的な取り組み内容も学びになったが、「D&Iを進めることは他社と競合しない、社会全体が良くなることだから」という考え方が特に素敵だなと感じた。 現場寄りの手触り感のある具体的な話が聞けて参考になった。 京セラでは“自分事化できる組織”を目指すため、一歩一歩苦労しながら、対話を大事にし、周りを巻き込みながら取り組んでいる点が、とても勉強になった。 京セラでは拠点が自走をするために、対話を重視し腹落ちすることに力を入れてきたことが伝わってきた。多様性を推進するのだから、拠点ごとにあり方が違っていいんだということに改めて気付かされた。 京セラの事例紹介はとても分かりやすく、赤裸々に包み隠さずお話頂き、大変に勉強になった。そして「D&Iは企業戦略」との話に気付きを貰った。大企業でありながら「コンパ」を大事にしているというのが驚きだったが、創業者の思いが浸透しているからこその伝統的なコミュニケーションと聴き納得した。 京セラのD&Iウェブページは、とても読みごたえがあり、取り組み事例を多く掲載しているのでいつも拝見していたが、今日はウェブページの内容よりも更に深く、お話を伺え大変参考になった。 各拠点の取り組みが参考になった。拠点の取り組み内容について、どんなものが他にあるのか、更に知りたい。当社も大がかりなものではなく、小さな取り組みから行っていきたい。 会社の風土が伝わり、興味深かった。自社の風土や経営理念は、ダイバーシティを推進する上で大切なキーワードだと感じた。「会社の存続⇒全員が賛成」。確かに説得力があると思った。 ダイバーシティ推進に近道はなく、継続して意義を伝えていくこと、誠実に対応していくことが必要であるということがわかった。 D&Iの考えを浸透するには、地道に粘り強く、そして楽しみながらということがポイントだと強く感じた。 弊社ではダイバーシティが全然進んでいないので、今回のセミナーを参考に、考えていきたいと思う。ダイバーシティ推進室に所属しているわけでもなく、人事ではあるが他の業務をしながら考えていくことは難しいとも感じている。でも小さいことから少しずつ進めたい。
  • 登壇者の感想は・・・

    京セラ株式会社 森 麻里子 氏

    京セラ株式会社 森 麻里子 氏

    「D&Iはこれからの世の中で多くの人の共通認識になっていくと思います。一方で、目指す理想と現実のギャップに苦心している企業のご担当者も少なくないと思います。法律や制度が変わっても、一気に慣習や考え方が変わるわけではなく、少しずつ、しかし着実に前進すると信じ、諦めず地道に継続することが大切だと感じています」
    株式会社子育て支援 熊野 英一 氏

    株式会社子育て支援 熊野 英一 氏

    「今回の参加者数や質問の多さから、D&Iに対する関心の深さを改めて感じました。いきなり完璧を目指すのではなく、また、他社の事例にとらわれることなく、D&Iとは自社のすべての人にとってプラスになる活動であることを信じ、今すぐできる小さなことから実績を積み重ねることが成功の秘訣だと考えています」