ホームセミナーセミナーレポート人事戦略フォーラム 2022年7月22日

セミナーレポート

人事戦略フォーラム

健康経営のその先へ!
~丸井グループの『ウェルビーイング経営』からの学び~

株式会社丸井グループ 取締役執行役員CWO(Chief Well-being Officer) ウェルビーイング推進部長 専属産業医 小島 玲子 氏
株式会社パソナ メディカル健康経営本部 副本部長(兼)メディカルDotank事業部長 佐川 泰徳

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今回の人事戦略フォーラムは『ウェルビーイング経営」を題材に、先進的且つ実践的な取り組みをされている丸井グループの取締役CWO(Chief Well-being Officer)の小島玲子氏をお招きし、講演と対談を通じて「これからの健康経営のあり方」を考察しました。

【PART1】 丸井グループのウェルビーイング経営 ~社員の「やりたい!」を叶える健康経営を礎に~
丸井グループ 小島 玲子 氏

「働く人達を支えたい」という思いから医師になり、20年間に亙って企業の産業医をしていますが、健康施策に関しては、産業保健職ばかりが躍起になっており、個人の行動変容に繋がらず、単なる単発の年間行事のようになってしまっている事に違和感を覚えていました。人的資本経営が多くの企業で注目されている昨今、人材が企業・社会の宝であるならば、健康はその根幹なのではないか、従来と異なるやり方が出来るのではないかと考えました。
世界保健機関(WHO)では、健康とは「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることをいう」と定義しており、このことからもウェルビーイングとは、本来の健康の定義そのものであると同時に、「良く在る」こと、実感としての幸せや豊かさを表していると言えます。
私は産業医として、この本来の健康=ウェルビーイングを目指して活動しており、高リスクの人や病気の人だけではなく、すべての人が今よりもイキイキすることを、丸井グループの「ウェルビーイング経営」と位置づけています。
丸井グループでは、”すべての人がしあわせを感じられるインクルーシブで豊かな社会を共に創る”をミッションに掲げ、”6ステークホルダー(お客様・お取引先様・社員・将来世代・地域社会・株主投資家)の重なり合う利益としあわせの調和を拡げること”を企業価値としています。5カ年の新中期経営計画の中では、ウェルビーイングとサステナビリティを事業目的に据えています。非財務分野を単体で実行するのではなく、非財務分野と事業を一緒に経営に落とし込んでいく事、その結果として財務指標を達成していく事が大切であると考えています。

丸井グループでは、2016年より健康経営の取り組みとして「全社横断プロジェクト(一般社員)」と「レジリエンスプログラム(役員・管理職)」を2大柱として実践しています。
「全社横断プロジェクト」では、全社員対象の”手挙げ”でメンバーを募集。なぜ健康経営推進プログラムに参加したいのかをテーマに、匿名で作文を提出してもらい、メンバーを選抜。応募総数260名・倍率5倍の1番人気のプロジェクトとなりました。まず初めに「丸井グループが目指す健康とは何か?」社員自身がビジョンを構築。そもそも健康とは何か、イキイキな状態とは何か、プロジェクトメンバーが毎月1回、就業時間内に考えます。1期1年間のプロジェクトですが、特にコロナ禍の4期目(2020年)には、入社2週目から仕事なしの不安な日々を送っていた新入社員に対して、プロジェクトメンバーが「パーパスワークショップ」を実施し、働く意味感を互いに共有。地域を元気にするという目的から、中高校生や地元のお客様からの感謝のメッセージをマルイ店舗に展示するなど、コロナ禍の社会をしあわせにする取り組みを実施しました。翌年の5期目は、”働く女性のウェルビーイング”と”仕事の意味感向上”を社会テーマに、フェムテックブランドを誘致・集約しての展示や、他社と協働での女性の健康オンラインセミナー・Z世代の起業家とのイベントを実施。また、自分のルーツを紐解いて大切にする価値観に気付き、現業との繋がりを言語化し共有する「ビーイング・ワークショップ」を若手メンバーの思いからスタートさせました。ワークショップの効果として、ワークショップ参加者群は対象群全体に比べ、仕事の意味感が14%向上し、働きがいや自己効力感が向上しているというデータが得られました。
一方、一般社員だけではなく、組織への影響力が大きいトップ層を巻き込む目的で、もう1つの柱である「レジリエンスプログラム」を実施。部長職の9割以上が既に受講しており、社員のご家族からもポジティブなメッセージを頂いています。所属長が本プログラムに参加する事で、職場の一体感や個人の尊重などの指標も向上。全社調査では、職場のウェルビーイングを高めようとする取り組みに、90%の社員が共感するという結果も出ており、近年の離職率も低水準で推移しています。
これまで当社では、健康経営ビジョンを打ち出し、職場の主体的な取り組みを促進し、身近な社会との共創、本業を通じた社会課題の解決に取り組んで来ました。今後は個社だけでなく、同じ思いを持つ社外の方々と一緒に、社会のムーブメントを起こすフェーズへ繋げていけるような健康経営の未来を期待しています。

【PART2】 《対談》丸井グループの取り組みから考える健康経営の未来
丸井グループ 小島 玲子 氏  (インタビュアー) パソナ 佐川 泰徳

続いての小島氏とパソナ佐川との対談では、参加者からの質問にも答えながら、更に丸井グループでの取り組みを深堀りしていきました。以下は対談での小島氏のコメントの要旨です。

「健康」がゴールではなく、企業が目指す未来や企業活動の中での健康経営の位置づけや、関係性のストーリーを明確にすることが重要です。健康経営と言いながら、福利厚生的に実施している構造では上手くいかないと考えます。産業医等の専門職を多く採用すれば良いということではなく、本当に健康経営を企業活動の中での投資と捉えて推進していくのか、企業としての姿勢が問われると思います。組織の特徴を活かすという意味では、丸井グループでは数年前から「手挙げ」方式を採用しています。そういった意味でも、その企業の文化に即した取り組みが必要ではないでしょうか。
丸井グループでは初めから健康経営の推進を「全社施策」として位置付けてもらいました。その背景としては、2度の赤字決算をきっかけに、流行のモノを置けば売れた時代が終焉し、自ら考え行動する”自律的な文化”が必要不可欠だった事、まさに丸井グループが転換期にあった事が大きく影響しています。そうした危機感を共有したことが、健康経営の推進が全社施策としてより強くドライブがかかった大きな理由に挙げられると思います。
若い世代の価値観が変わって来ている事も感じており、2018年に実施した経済産業省の調査では、就職先の選定基準として、給与水準や雇用の安定よりも、社員の健康や働き方に配慮している事を重要視している数値が高い事も分かってきました。実際に丸井グループでも「ウェルビーイング推進プロジェクトに入りたくて入社した」という新入社員が3名もいます。このことも、健康経営の推進によって得られた効果として挙げられるかもしれません。
健康がテーマの社内イベント等で、どの様な内容が参加しやすいかというご質問に関しては、その職場によって、社員がやりたい事は全く違うと考えていますので、産業医や担当者が一方的に進めようとしても上手くいきません。そのため、職場のニーズを出発点として、実際に職場の人と対話しながら一緒に作っていく事が非常に大切だと考えています。

【PART3】 あなたのポケットに「オンライン健康推進室」 ~働くすべての人に充実した健康支援を~
パソナ 佐川 泰徳

続いて、パソナの佐川から「オンライン健康推進室」の取り組みを紹介させて頂きました。

 オンライン健康推進室では”働くすべての人を、心身ともに健康に導く”をミッションに掲げており、健康管理・増進を担う健康推進室をオンラインで実現しています。従業員向けのサポートとして、チャット・電話・WEB面談等、多様な方法での健康相談を行なっています。メンタルヘルス・睡眠障害・筋骨格系の痛み・生活習慣病対策・感染症やアレルギー・受診相談など、相談内容も多岐に亙り、それぞれに対応が可能です。動物診断などで診断された健康タイプ別にセグメントした配信や、ユーザー参加型のイベント等も提供しています。
推進担当者向けのサポートとしては、企業毎に担当産業看護職が付き、健康づくりをサポートします。階層別研修や全社セミナー等を通じて、組織の健康風土醸成のサポートも可能です。
健康経営を支援する圧倒的総合力、LINEを使用する事での低コストでの導入が可能、産業看護職によるクオリティの担保などから、当サービスが皆様に選ばれています。パソナでは、様々な企業の健康経営推進をサポートしていければと考えています。

最後にお二人から参加者の皆様にメッセージを頂きました。

◆小島 玲子 氏より・・・

私自身、研究者ではなく、試行錯誤しながら現在進行形でこのウェルビーイング経営に取り組んでいます。今後も色々な企業様と対話をし、情報交換していければと考えています。個社だけで奮闘するのではなく、社会全体で”健康経営に取り組んでいて当たり前”な未来が来ること、そしてその質を高めていく事が全体の底上げに繋がり、更には社会のムーブメントに繋がっていくと嬉しく思います。

◆佐川 泰徳より・・・

小島先生のお話を伺い、丸井グループでの取り組みは、健康経営の本質を捉えていると強く感じました。ひとりひとりの心と身体の健康だけではなく、家族・子供・地域など、様々なステークホルダーを巻き込み、ウェルビーイング経営を発信している事が非常に素晴らしいと思います。

◎フォーラムを終えて

  • フォーラムの内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    グラフ
  • 参加者の意見・感想は・・・

    Well-beingの本質についての理解が深まるだけでなく、活動意欲をより高めてもらった。健康経営銘柄や優良法人の取得にばかり意識が向き、担当者だけが盛り上がる活動となり、優良法人を取得しても、現場の雰囲気とのギャップで、一部の社員からは反感が生まれることがある。会社の活動に社員の意志をどうやってコミットさせるのか、会社ないし職場単位で考えることが出来る自律的な活動が大変素晴らしいと改めて学んだ Well-beingを全社メッセージとして発信することや、経営課題とのリンクやストーリーが成立していることの重要性を感じた。社員横断のプログラムと経営トップ層向けのレジリエンスプログラムの両輪での展開だからこそ、その後のボトムアップ活動が上手くいくのだと感じ、この両輪はどちらも欠かせない、必須の施策だと思った。また、Z世代の採用にまで影響がある(健康経営をやりたいから入社した)ということに、時代の流れを感じた 一連の取り組みに社員の皆さんがとても協力的なことが素晴らしく、健康経営を投資として経営者に考えてもらうことがまず必要だなと改めて感じた 当社では産業医と保健師の7名で、約4,000名の従業員を見ているが、健康意識の改善や健康経営の施策等が、なかなか全社的に広まらないもどかしさを感じていた。本日のフォーラムを通じて、やはりもっと各部門の役職者を巻き込んだ中長期的な戦略が必要だと感じたので、当社でも何とか実践できるようにしたい 最近話題となっているWell-beingに興味をもって参加したが、丸井グループは既に10年以上前から、このような取り組みをしていたことに、たいへん驚いた。当社は10年前には、まだまだ売上売上!と声高らかにしていた事を考えると、このような先見の明をもって長年に亙り取り組んでいることが、たいへん素晴らしいと思った。ぜひ“日本の宝”として、日本全体に流れを創ってもらいたい 健康経営という言葉からは、身体の健康管理などがまず思い浮かぶが、心からイキイキしてもらう手助けを、社員一丸となって取り組む様子がとても参考になった。テレワークが多い会社、職人が多い会社、工場勤務が多い会社など、会社によって取り組むべき施策は変わってくると思うので、当社でも社員が先頭に立ってWell-beingを拡げていけるようにしたい 健康イベントを各事業所の意見を聞いて企画するという点が参考になった。企画の段階から事業所側の社員を巻き込めれば、事業所毎の事情を汲むことができ、やらされ感のない社員主体のイベントを開催できると思った。これらを可能にする、積極的な手挙げ文化を育んできた丸井グループの人事考課における職場貢献のウエイトについても気になった マイナスをゼロにする取り組みだけではなく、前向きな取り組みを考えるという言葉が印象的だった。当社でも、こうした前向きな取り組みも検討したい 丸井グループの従業員の主体性の高さに驚いた。当社も手挙げ制の施策は幾つか実施しているものの、あまり手が挙がらないのが現状。面白い、興味を引かれるような内容じゃないのかもと思いながらも、健康という定義と弊社の状況を改めて照らし合わせ、今回お話頂いた事例を参考にして良い点は取り入れたい 弊社も様々なプロジェクトは手挙げ制で、丸井グループとやっていることは似ているが、ここまで業務時間を割けていないので、改めて、もうちょっと図々しく?業務時間を使っても良いかなと感じた Well-beingは、何からどう取り組むべきかで、迷うところがある。いきなり大きな目標ではなく、まずは小さな目標を立てながら進めようと思う 当社も正社員からアルバイト・マネキン・派遣社員と、幅広い雇用形態の従業員がおり、更にグループ会社が多岐に亙るため、まず浸透させることが難しいという、他社の方の意見に強く賛同した。同時に、産業医や人事部門が先導するのではうまくいかないという点もその通りだと思い、仕組みを作るために会社の文化を変える、そのきっかけを見逃さないことが重要だと感じた。とは言え、私個人は育児時短勤務をしている一般社員なので、数千人規模の会社を動かすことは現実的に難しい。そんな私でも、小島氏のお話は聴いているだけで力が湧いてくるような感覚を受けた。大きなことはできなくとも、まずは自分自身の考え方やあり方を意識しようと思った 私は営業職だが、週1日「社内副業」として人事部でWell-being推進の業務を担っている。当社のWell-beingスタッフは公募制で半年ごとの4人体制だが、丸井グループでは1年という長期で、50人という大所帯であることに驚いた。丸井グループのように、社内のみならず、地域を巻き込んだ活動ができるように邁進したい 小島氏の専属産業医且つ健康経営推進部門の部長という立ち位置は、最高だと思う。このような素晴らしい体制を組める丸井グループがとてもうらやましい 会社がイキイキと働くための施策を行うのではなく、社員自らが考え改善することを尊重し、それを支援する枠組みを作っていることが、丸井グループの大変素晴らしい点だと思うし、会社経営はそうあるべきだと思う。今後もWell-beingや人的資本経営について取り上げるセミナーを期待したい
  • 登壇者の感想は・・・

    株式会社丸井グループ 小島 玲子 氏

    株式会社丸井グループ 小島 玲子 氏

    「多くの方からセミナーの感想を頂き、社会に健康経営を推進する沢山の「仲間」がいることを実感しました。人の幸せや健康を向上させる取り組みは、複数の企業や地域など、多様な人々と共創していくことが効果的と考えています。これからも多くの皆様と情報交換できることを楽しみにしています」
    株式会社パソナ 佐川 泰徳

    株式会社パソナ 佐川 泰徳

    「丸井グループでは一般社員、役員・管理職問わず、社員の皆さまで「主体的」にウェルビーイング経営に取り組んでおり、全社の熱量の大きさを感じました。パソナとしても「非財務指標」の強化が「財務指標」にも大きく貢献していくことを信じ、健康経営を推進していく各企業様の支援を拡げてまいります」