ホームセミナーセミナーレポート人事戦略フォーラム 2022年10月24日

セミナーレポート

人事戦略フォーラム

社内公募や社内起業による新規事業創出と人材・組織開発

ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社 執行役員 事業開発室長 三浦 英雄 氏
イノベーション・イネーブルメント チームリーダー ベンアイサ 紗依 氏
STATION Ai株式会社 代表取締役社長(兼)CEO 佐橋 宏隆 氏
豊通ヒューマンリソース株式会社 組織・人材開発部 部長 神田 和裕 氏

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多くの企業が既存事業の強化だけでなく、次の事業の柱となるような新規事業の創出をめざしています。今回の人事戦略フォーラムは、中長期の将来を見据えた新規事業の創出と同時に、それを実現する人材の行動変容や組織文化の創造を果敢に進めている企業の実践者2人をお招きし、講演とトークセッションを通じ、「新規事業創出と人材・組織開発」の観点から、具体的な取り組み事例や、新規事業の推進者と共に欠かせないイネーブラー(=支え手・後援者・支援者)のあり方などについてご紹介いただきました。

【PART1】 [イントロダクション] イノベーションが生まれ続ける人的資本経営のあり方とは?
ウィルソン・ラーニング ワールドワイド 三浦 英雄 氏

いま多くの企業が成功パターンの再構築や、次なる成長パターンの発見が求められる変革期に直面し、新たな価値創造や新規事業に取り組んでいます。そういった変革期の企業からは、
「新規事業創造の取り組みを進めているが、成果が出ない」
「事業アイデアを募集しても、魅力的なアイデアが出てこない」
「新規事業の挑戦に、手を挙げる人がいない」
「新しいアイデアが、事業として実現に至らない」
「新規事業開発を担う人材が、社内にいない」
といった課題をよく耳にします。これらを能力開発や仕組みで解決しようとしても、期待する成果が出てこない原因は、組織文化そのものに起因します。挑戦を支援する行動や環境を“イネーブルメント”と言いますが、価値創造のためには、挑戦者を増やすことと同じ位に、挑戦者の想いに共感し応援し、挑戦の実現に向けた支援“イネーブルメント”をする人、即ち “イネーブラー”が必要です。挑戦者とイネーブラーの相互関係により、価値創造が生まれる組織文化は創られます。
今回紹介する2社の共通点は、財務的な結果だけを見るのではなく、価値創造を通じた人材開発と組織文化の創造を統合的に行っていることや、イノベーションを実現する人的資本経営に、経営と事業部門、人事が三位一体で取り組んでいることです。

【PART2】 【事例紹介①】 ソフトバンクにおける社内起業による事業創出と経営人材の育成
STATION Ai 佐橋 宏隆 氏

■ソフトバンクイノベンチャーについて

2011年に開始した、「事業創造」と「事業を創出できる人材の育成」を目的とした制度です。新規事業は「応募件数がなかなか増えない」「大きく成長する事業にならない」といった相談を、他社の方から受けますが、ボトムアップだけで事業を大きくすることは難しく、ボトムアップで事業を育てた後、どこかのタイミングでトップダウンに切り替える必要があると考えています。
この制度では「情報革命で人々を幸せに」という経営理念に沿っていればテーマは自由とし、ソフトバンクグループ社員だけでなく、内定者やグループ外からの共同提案も可能としています。また、制度の特徴は、SBイノベンチャーとう支援会社が、アイデア創出前から事業化後のスケールフェーズまで、それぞれのステージに合わせて幅広く支援していることです。また、審査の各ステップ間の時間を長く取ることで、ブラッシュアップを可能にしていることや、スタートアップの各フェーズにおけるKPI達成目標期間と撤退審議基準を明確に設定していることも、特徴と言えるでしょう。

■ソフトバンクイノベンチャー制度が提供するプログラム

2016年6月に始動し、現在約5,300名が登録している、グループ社員向けインキュベーションプログラム“Innoventure Lab”があります。ここでは国内外のスタートアップに関する知識や、新規事業開発のノウハウ、 仮説検証の方法など、幅広い知識を習得・実践するプログラムを取り揃え、0→1の事業創出、社内起業家の育成を行っています。業務時間外で活動することで、興味がある方が集まり、登録者をモニターとした仮説検証も可能です。
事業化前から1案件2名以上の専任担当を付け、個別支援を行っています。新規ビジネス創出に役立つ講演会やアイデアの創出や案件ブラッシュアップを目的とした勉強会、合宿の開催や仮説検証の場の提供を行っています。また、チームに不足している人材探し、マッチングの仕組みの提供、案件検討に役立つ情報やツールの提供も行っています。さらには最終審査通過後から事業化後のスケールフェーズのプロジェクトを対象に、経営、実務、ノウハウ、資金の4つの側面から支援する“Innoventure Studio”もあります。

■プログラムの変遷

制度が誕生した当初は、イベントとして盛り上がり、自ら手を挙げてチャンスを掴み取る風土醸成として機能した一方で、充分な支援が受けられず、なかなか事業化まで至りませんでした。そこで、SBイノベンチャーを子会社化し、制度の企画・運営を行ない、事業化検討のノウハウを蓄積、審査通過後の支援を充実する仕組みを作りました。その一方で応募時に求めるレベルを上げたことで、応募数が減少傾向に転じたため、Innoventure Labを組成し、各人の状態に応じた支援を提供することにより、応募数の増加と、提案の質の圧倒的向上が実現しました。また、事業化案件が増えたものの、既存事業とのシナジーが薄いことが課題に挙がり、Innoventure Studioを組成し、支援ノウハウのコンテンツ化やアーカイブ化を推進し、事業化検討フェーズにおける活動内容及び、事業化に向けたガイドラインを提供しました。様々な改革をする中で、事業化判断時に大企業の目線に惜しくもフィットしないプロジェクトが出てきたことから、出向企業制度など様々な事業創出のあり方も模索しました。新規事業創出プログラムで培ったノウハウを社外の顧客向けに提供したり、人事と連携して、就活生や内定者へもプログラムを提供して、早期からの人材を囲い込み、育成していく仕組みも作っています。
以上のように、社員の積極的な新規事業提案を奨励し、事業化の検討を通じチャレンジングな企業風土づくりへの取り組みや改革への想いを、佐橋氏から詳しくお話ししてもらいました。

【PART3】 [事例紹介②] 豊田通商の新規事業創出を後押しする人材・組織開発
豊通ヒューマンリソース 神田 和裕 氏

■社内公募プロジェクトとしてのTIVP (Toyotsu Inno-Ventures Project)のチャレンジ

TIVPは、トップダウンでもミドルダウンでもなく、若手による有志団体の『着火部』と呼ばれる部活動がきっかけとなって、中心的な役割の若手社員が上層部に掛け合い、2018年に立ち上がったプロジェクトです。
TIVPは社員一人ひとりの小さな挑戦・マインドの変化を大切にし、いかに底上げできるかを重視し、社員から新たな事業の種を発掘し、アイデア発想から仮説検証、PoCを行い、最終的に営業本部での事業開発に繋げることをコンセプトとしています。
参加資格は、入社2年目以降の豊田通商社員1〜3名によるチーム、関連会社社員が参加する場合にはチーム内に1名、豊田通商の社員がいればOK、本部を横断したチームでの応募も可としています。
会社は、外部メンターによるナレッジ提供、業務時間の割当て、活動経費の付与、事業受入先の確保といった、事業化に向けた全面的なバックアップを行なっています。現在までに3つのチームが事業化し、プレスリリースにまで進んでいます。
一方、現状の課題としては、組織や上司の理解と支援がまだまだ限定的であるため、新規事業のイネーブラーの育成が必要となっています。ビジネスのライフサイクル短縮により、主力の既存事業と成長事業、更には新規事業が併存する時代になり、「両利きの経営」が必要な時代と言われますが、それぞれの事業フェイズで求められるものが異なります。これまでとこれからで求められる組織やマネジメントのあり方が変わっていく中で、イネーブラーに必要な要素を検討し、自社のイネーブルメント行動のパターンを調査し、具現化しました。その上で、イネーブラーを増やすために、ワークショップを実施するなど、挑戦が生まれる環境作りに地道に取り組んでいます。

■人材育成・組織開発の取り組み

新規事業開発への取り組みやそれに関係する人材育成には、人事の機能の中でもとりわけ採用、人材開発、組織開発、D&I、カルチャーが大切だと考えます。強い個と強い組織づくりを人材育成・組織開発の方針としていますが、「強い個=人材育成」と「強い組織=組織開発」が車の両輪のように連動することが大切だと考えています。人材育成においては、最終的には“豊通らしいグローバル経営者/変革型リーダーを育成することを目標にしています。そして、仕事を通じて学んでいくこと、いかに経験学習サイクルを回していくかを重視しています。また、①”Lead the Self”=自分をよくする②”Lead the People” =他者をよくする③ ”Lead the Society” =社会をよくすることの3つを、「リーダーシップジャーニー」として体系化し、自分らしいリーダーシップを発揮できる人材になってもらいたいと考え、取り組んでいます。
「人材開発×組織開発」 によりめざす世界は、D&Iの文脈と似ていますが、多様な人材が活き活き働く職場であり、チームで成果を出す職場です。各職場が、持続的生産性の高い組織へ自ら考えシフトする活動として”いきワク活動“を行っていますが、その活動はエンゲージメントサーベイ導入や、自発的な組織開発推進リーダーの育成や、ハンズオン支援体制の構築・強化により、自発的に行う形に進化・深化しています。
また、強い個づくりを目的とした、ライン長(部長・GL)向けプログラムの中では、コーチングを取り入れたハイブリッド型のコミュニケ―ションスキルを習得してもらっています。結果、上司がメンバーの意見を聴くようになった組織では、「上司への信頼」や「部下の尊重実感」など、エンゲージメントサーベイの結果が向上するといった効果が出ています。リーダーたちの成長・チャレンジによるメンバーの育成やエンゲージメント向上が、多様な人材をエンパワーし、付加価値を最大化させ、新規事業開発にも多大なる影響を与えています。
以上のようなイネーブラーを増やす取り組みや目指すべき人材育成と組織開発について、神田氏よりお話しいただきました。

また両氏の講演の後で、ウィルソン・ラーニング ワールドワイドのベンアイサ 紗依氏が、両氏の想い、新規事業の挑戦者と関わる際に大切にしていること、自身のイネーブラーの存在と、その影響等をインタビューしました。

【PART4】 [トークセッション] (テーマ) 新規事業の創出と人材・組織開発を考える
【パネリスト】
STATION Ai 佐橋 宏隆 氏・豊通ヒューマンリソース 神田 和裕 氏
【モデレータ】
ウィルソン・ラーニング ワールドワイド 三浦 英雄 氏

新規事業創造と組織・人材開発の観点から、挑戦者・組織へ関わるイネーブラーとしての想いや行動について、トークセッションを実施しました。
バックグラウンドに人事のキャリアがあることや、ご自身が挑戦者でありイネーブラーであることなど、共通点が多いお二人が、「人事×新規事業」という視点から、お互いに「社内起業家の挑戦をどう正しく評価するか?」や「想いの大きさだけではなく、後々延びていく事業やチームの条件・要因とは?」といった質問を互いに交わしながら、トークセッションは進行しました。
また、今回のフォーラムは人事や人材開発を担当する参加者が多いこともあり、人事のキャリアが新規事業創造の取り組みに生きている点についてもお話しいただきました。人の変容を促すといった点からも、変革の起点は人事からだと信じていることや、ブレイクスルーできそうなのは人材や組織といった人事に関するポイントであること、大変なことだが人事がやることは理にかなっており、意義があること等もお話しされました。
挑戦者と向き合いながら、新規事業をつくるように組織や制度を作っていくことや、組織の中でイノベーションを起こしていくことが重要になってきており、人事の方が活躍できる状況が揃ってきているとのメッセージを最後に、トークセッションは幕を閉じました。

◎フォーラムを終えて

  • フォーラムの内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    グラフ
  • 参加者の意見・感想は・・・

    佐橋氏からの事業創造に向けた具体的な支援ステップや、経験に基づく数々の試行錯誤、神田氏からの事業価値創造を次世代リーダー育成にも繋げていく思いが、大変参考になり、また共感した。中でも、佐橋氏が示唆した「個人があきらめてしまう場に立ち合えていない」という点は、弊社が内省する際のヒントとなった。 弊社の何歩も先を進んでいるお話で圧倒されてしまったが、大変勉強になった。 事業創成人材をどのように創っていくかについての情報を得たかったが、その一端を実例に即して知ることができたのは有意義だった。 「人事パーソンが、アーリーステージの新規事業の人・文化を生み出そうとしている」という切り口がとても面白かった。最後に三浦氏から「人事だから良かったことは?」という質問があり、「人事がやるといいこと・やるべきこと」を答えられていたが、「人事だからよかった」と言う点については、私は人事ではないのだが、「人事だからこそ、どうやって人事が決まっているか、育成の方針はどうなっているか、などを理解しているので、新規事業をやる時に人事の壁(これが結構大きい)をどう突破すればいいのかが分かる」ということだと解釈した。自分が新規事業のプロジェクトをやっていた時は、人事に仲間を作って、あれこれ本当にしょっちゅう相談していた。登壇者のお二人とも具体的にやりながら、次のステージに挑戦されていて素晴らしい。その姿勢そのものが新規事業ぽくっていいと思う。リーンスタートっぽい悩みも、とてもよく分かる。既存事業の場合は可視化・定量化・評価ツールが揃っているが、新規事業ではそうはいかない。かといって、ずっと属人的なやり方では続かない・・・その通りだと思う。お二人のような「(いい意味で)とても人間的な方」が中核にいる間は、「属人的ではない方法」を模索しても健全な方向に向かうと思うが、そうでない方々に交代した場合に「ツール・ルール」を振り回すようになりがちで、そうなるとせっかく育て上げてきた文化も失われてしまう。そういう意味では、実はとても属人的な事例をちゃんと整理して体系立てるやり方(これは非属人的な取り組み)はいいと思う。それと、常にガイドラインやステージ判定基準を、現実の事例を鑑みながらバージョンアップしていくこと(これも属人的と非属人的のmix)も必要だと思った。
  • 登壇者の感想は・・・

    ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社 三浦 英雄 氏

    ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社 三浦 英雄 氏

    「新規事業創造も組織カルチャーの創造も、短期的な成果を急ぐあまり、正解や型を求めがちです。企業も個人もユニークな存在であり、向き合って学び続けたプロセスの先に、自社にしかない創造的な文化、人、新たな事業が生まれていく。そう強く思えた両社の取り組みでした。想いある人事の挑戦が、願う未来を創る時代です」
    ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社 ベンアイサ 紗依 氏

    ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社 ベンアイサ 紗依 氏

    「インタビューさせて頂き、改めて、お二人が組織で働く人々の想いに寄り添って共感しながら、まさに人的資本経営を実践し、組織で働く人々がいきいきと創造的に活動していける環境づくりに情熱をかけて取り組んでいらっしゃるんだと感じました。日本企業がその持てる力を最大限発揮できるよう、そしてたくさんのイネーブラーが存在する社会の実現に向けて、皆様とご一緒していけたら幸いです」
    STATION Ai株式会社 佐橋 宏隆 氏

    STATION Ai株式会社 佐橋 宏隆 氏

    「新規事業開発については、普段どうしても事業開発のノウハウやテクニック論に終始しがちですが、失敗を許容する組織・環境づくりや、挑戦する社員を支える仕組みづくりが本当に重要となります。イネーブラーの存在や人材育成、組織開発の観点から、再現性ある仕組みを如何に構築していくか、改めて深く考える大変良い機会となりました」
    豊通ヒューマンリソース株式会社 神田 和裕 氏

    豊通ヒューマンリソース株式会社 神田 和裕 氏

    「新規事業開発は、単なる仕組みや制度だけでは成功が難しいテーマのひとつです。挑戦や変革をリードする人材の育成、挑戦者を支えながら自らも挑戦するイネーブラー、組織開発やカルチャー醸成の分野で主体的に人事パーソンが関わっていくことが重要だと思っており、これからも我々なりにチャレンジを続けたいと思います。今回伺ったソフトバンク様の実例は大変学びが多く、貴重な機会となりました。誠にありがとうございました」