ホームセミナーセミナーレポートダイバーシティ研究会 2024年4月18日

セミナーレポート

ダイバーシティ研究会

人的資本経営としてのDE&I
~これからDE&I推進責任者に求められる視点とスキル~

筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局 教授
EY Japan ディレクター ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス担当 梅田 惠 氏

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今回の「ダイバーシティ研究会」は、DE&Iを人的資本経営の切り口から見つめ直し、現在の立ち位置と今後進むべき方向や新たな潮流を皆様と共有する機会としました。常にDE&Iの最前線で活躍されてきた梅田惠氏による講演、参加者同士の情報交換・意見交換会、全体討議の3部構成にて開催しました。
以下は梅田氏の講演の要旨です。

【講演】 人的資本経営としてのDE&I ~これからDE&I推進責任者に求められる視点とスキル~

1. 人的資本経営とDE&I ~人的資本経営とD&Iの関係を理解する~

2020年頃より注目されるようになった人的資本経営は、人材を「資源」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方であることは、言うまでもありません。人的資本経営においては、これまでの「株主至上主義」ではなく、従業員一人ひとりの幸福度や個性の発揮・人権問題をより重視する必要があります。ISO30414の人的資本に関する情報開示のガイドラインにも、ダイバーシティ施策と非常に関連性の高い項目が多く設けられており、これらのことから見ても、経営戦略としていかにダイバーシティ施策を実行していくかは非常に重要な課題です。
しかしながら、実態としてダイバーシティ担当が人事経験未経験者や女性のキャリアパスのポジションになってしまっているケースや、2~3年で交替してしまうケースも多く、組織の中にダイバーシティ推進のノウハウがなかなか蓄積されず、その時々の個々の担当者のスキルに依存してしまっている面もあるのではないかと感じています。
DE&I推進担当者には、企業文化変革のリーダーとして、経営に資する戦略を立て、自社の強みと文化をUpdateしていくことが期待されています。同質性の高い組織からはイノベーションが生まれにくいため、意思決定のポジションを多様化することや、複雑で変化が激しい時代のため、変化に対して前向きな企業風土や文化を醸成していくことが必要です。DE&I推進担当者には、そのためにどのような計画を立てていくかという経営企画(ストラテジスト)としての視点が必要です。また、労働人口の減少に伴い、一人ひとりの生産性や質を高め、幅広い層からリーダー候補を見出すと同時に、リーダー候補者層を厚くしていく採用・人材育成・労務としての役割も担います。加えて、管理職や社員への腹落ちも不可欠であるため、自社及び社員の強みや個性を明確にし、社内外に売り込むブランド力が重要であり、そのような面では、広報・マーケティング・社内営業の視点も必要です。

2. Diversity & Inclusionの新たな潮流
~D&Iに新たに加わった概念と背景を理解する~

ダイバーシティ(多様性)とは「違い」のことであり、外見から認識できる違い(人種・年齢・性別 等)だけではなく、あらゆる違い(精神障害・疾病・宗教 等)を対象としています。目に見えない違いは、一人ひとりの個性を形成している大切なものである一方、差別の対象にもなり得るため、取り組みが難しい領域です。ですが、この目に見えない違いに着目していかなければ、本当の意味で“個性を活かす”とは言えないでしょう。 インクルージョン(包摂)とは、同調・同化とは異なり、チームメンバー各々の「違い」を活かしていくという考え方です。同時に、メンバー一人ひとりが尊重されていると感じ(Belonging)、また実際に尊重される環境(心理的安全性)を実現することが重要です。Sense of Belongingとは、自分の存在意義を感じられ、心理的安全性を感じ“つながり”を感じられることです。

昨今、これらのDiversity & Inclusionに新たにEquity(公正)という概念が加わるようになりました。D&I初期の取り組みでは、全ての人に平等な機会を提供する“Equality”施策による環境整備が重要でしたが、促進・強化の段階に至ると、もともとあった格差を縮め、個性を活かし、その人の立場・状況やキャリアを考えた“Equity”施策が鍵となります。差別に関しては、実はマジョリティ集団も当事者であり、“Equity”にはマジョリティ側の行動変容も必要です。マジョリティ側に合わせた社会システムや制度が作られているため、マジョリティの存在そのものがマイノリティを生み出してしまっているという構造的差別は、なかなか意識しづらいことも事実です。マジョリティであることは無意識で自覚がない場合が多いため、思い込みからの脱却や“無知の知”を持つことが必要ではないでしょうか。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)やマイクロ・アグレッション(無意識の差別)を正しく理解し、世代や個々人の価値観の違いを認識していくことが、これからのDiversity, Equity & Inclusionにおいては必要です。
※アンコンシャス・バイアス…特定の属性の人に対して、固定観念や先入観、勝手な解釈を持つこと。
※マイクロ・アグレッション…無自覚に発した言葉や態度が、否定的なメッセージとなり、相手を傷つけ、ストレスを与えてしまう無意識の差別のこと。

3. Diversity, Equity & Inclusionはなぜ必要か
~DE&I担当が最もよく聞かれる質問に回答出来るようにする~

企業がDE&Iに取り組むメリットとして、市場競争力の強化と企業文化・風土の刷新が挙げられます。真にDE&Iが効果を発揮するためには、意思決定層の多様化が不可欠です。2017年にボストン・コンサルティング・グループが実施した調査では、経営層の多様性スコアが平均以上の企業では、イノベーションによる売上が全体の45%を占めるという結果が示されました。日本では、同質性がイノベーションには不向きと言われており、イノベーション創出のためには、異なる個性が健全な議論をしていくことが大切です。そして、イノベーションをどう生み出していくのかという観点で、ダイバーシティ施策を実行していく必要があります。DE&Iの真の目的は、試合の観戦者を増やすことではなく、試合に参加するプレイヤーを増やして、多様なメンバーが全員でチームに貢献している状態をつくることです。

4. 実践編:経営戦略としてDE&Iをどのように実践するか

①DE&I推進のTouchポイントを作る

まずは会社のPurposeやPolicyを確認・理解し、ダイバーシティに関する経営層のコミットメントを策定・宣言してもらうことが、ダイバーシティ担当者としてまず必要なステップです。採用・研修・制度・管理職支援・従業員の巻き込みや、社会など様々なセグメントに対してどんな働きかけをしていくか、戦略を立て実行していきます。DE&Iを推進していく上での自社の特徴を把握した上で、その特徴を管理職や社員に理解してもらうよう、メッセージを発信しましょう。

②現状の確認

会社のPurposeを理解した上で、ありたい姿と現状を比較し、どのくらいギャップがあるのかを確認します。企業が保有する人材や制度に関する各種データを用いて、ダイバーシティの観点からどう貢献していくのかを考察します。

③活動フレームとロードマップを作る

例えば、各種Awardの分析結果や自社の強みや弱みのデータに基づき、インパクト・影響力・コミットメント等を考慮した上で、最優先で行う上位3つの重点目標を決定し、活動フレームを決めていきます。

④KPIを設定する

3-5年後のあるべき姿の数値目標を立て、四半期ごとにチェックし、アクションプランを実行します。KPI設定をすることで、会社の業績に貢献しているという姿を見せることも重要です。

⑤D&Iの協力者(Advocates)を作る

ダイバーシティ担当部門だけで全てやらなければいけないと思わず、多くの関係者(役員・人事関連部署・サステナビリティ関連部署・広報・労働組合・外部コンサルタント 等)の力を借り、こうした方々をいかに活動に巻き込んでいけるかも、非常に重要なポイントです。

⑥D&I推進のアクション例

トップメッセージやEラーニング、講演会やワークショップ等、あらゆるリソースやメディアを活用し、協力してもらいましょう。

⑦各種認定・表彰制度にチャレンジする(ブランディング)

外部のアワードにチャレンジすることは、客観的に自社の強みや改善点を確認できるだけでなく、活動フレームにも組み込みやすく、またビジネス上のメリットや社内外のブランディングに活用することも可能です。例えば2016年に発表されたLGBTにとって働きやすい職場とは何かについて理解促進するためのガイドライン「PRIDE指標」は、企業努力を表彰することを通じて応援し、成功事例を紹介し、取り組みの継続と定着を促すものです。

⑧社会への働きかけ

ダイバーシティ推進においては、自社だけの取り組みだけではなく、法律の後押しも必要です。NPOや社会の取り組みに会社として名前を連ねることも必要なことです。

研究会後半では、参加者の皆様同士による少人数での情報交換・意見交換会を実施しました。少人数のグループ毎に「これからのDEI推進責任者の役割・責任と能力開発・キャリア形成」をテーマに意見交換を行いました。

また研究会翌週(4/24)に開催した梅田氏を囲んだDEI責任者・担当者の交流会では、DEI推進における理解浸透・組織風土醸成の方法やエクイティへの取り組みステップ等に関して、梅田氏からアドバイスを貰いながら、積極的な意見交換・情報交換を行いました。

◎研究会を終えて

  • 研究会の内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    大変参考になった=68% 参考になった= 32%あまり参考にならなかった= 0%参考にならなかった= 0%
  • 参加者の意見・感想は・・・

    当社では、ちょうどこの4月からエクイティに本格的に取り組むため、部署名が「DE&I推進グループ」になったところだった。本日のお話を参考に、粘り強くDE&Iを進めていきたい。 非常に体系的で参考になるお話に感謝している。特に、エクイティからインクルーシブ・リーダーシップへの図解が非常にわかりやすく、今後目指していくべき方向がビビッドに理解できたように思う。どう達成していくかが中々難しいテーマだが、しっかりと取り組んでいきたい。 梅田氏のお話は大変わかりやすくためになった。また、他社がどのような施策を実施しているかに大変興味があったので、担当者同士で話ができたのは大変貴重な機会だった。 梅田氏のお話を伺った後、グループでディスカッションすることで、より理解が深まった。また、DE&I推進担当は女性を働きやすくするとかだけではなく、もっと大きな視点が必要で、企業文化を変革するリーダーなんだというお話に、大きな学びを得た。 DE&Iの潮流やDE&I担当としてどのように進めていけばよいか等、非常にわかりやすく具体的なお話で大変勉強になった。また、グループディスカッションでは、どのように企業では進めているのか等、自身の悩みに対してもアドバイスを頂き、大変参考になり、非常に有意義な時間だった。 DE&I担当が取り組むべきフレームや内容が整理されていて、これから取り組んでいく立場の私にとっては、とても参考になった。 社内全体へDE&Iに対する理解を浸透させることはとても難しいと思っていたが、基本的な考え方や浸透するための方策などを伺い、大変参考になった。 経営の目線からどう進めていくべきかや、チャレンジへの対応法など、具体的なアドバイスからDE&Iのスタンスまで網羅したお話で、気付きの多い貴重な機会だった。 ダイバーシティの誤解や罠のような、日頃感じていた事柄をすっきりとまとめてお話を頂いたので、私自身の考え方が間違っていないと感じた。 この4月からダイバーシティ関連の部署に異動したばかりで、専門用語を覚えるのにも一苦労の毎日だが、本日のお話は非常に参考になった。資料を再度読み直し、知識を深めて行きたい。 グループ会社を含めた全体、会社単位、事業単位、職場単位でそれぞれ対応するべきこと・打ち手について、今後もしお話いただく機会があれば嬉しい。また「マイクロ・アグレッション(無意識の差別)」について、初めて学ぶことができた。 DE&Iの担当経験が浅い人にも配慮してもらい、言葉の定義からわかりやすく解説してもらったのが良かった。また、DE&I推進で必ずぶつかる各層の巻き込み方も、そのエッセンスを教えていただき、とても役立った。 「目からうろこ」のお話がたくさんあった。自分も「マジョリティの特権」の側にいて、それに気付いていなかったのだと感じた。 女性管理職の割合や障害者雇用などの数値達成自体が目的となっているとの話に共感した。 DE&Iを取り巻く環境の変化やあるべき姿をわかりやすく教えていただいたことや、梅田氏の実体験に基づいた重点ポイントの整理や具体的な施策のお話が、とても勉強になった。「自社の特徴をどう定義して取り組めば良いか」「会社の業績に貢献していることを認知してもらうにはどうしたらいいか」「経営層からのトップダウンが望めない場合、DE&I担当として優先すべき取り組みは何か」など、伺いたいことがまだまだ沢山あるので、また梅田氏が登壇するセミナーを開催していただけると嬉しい。 梅田氏のお話の中で、マジョリティ側の無意識に言及されていたが、どのような取り組みが効果的なのか、恥ずかしながら具体的なイメージが浮かばない。マジョリティ側への会社からの働き方の取り組み事例等があれば、今後紹介してほしい。
  • 登壇者の感想は・・・

    筑波大学 梅田 惠 氏

    筑波大学 梅田 惠 氏

    「日本社会にD&Iが浸透するに従い、企業のD&I推進担当者の役割も拡がり、高度化・複雑化しています。新たな概念が加わったとしても、誰もが自分らしく、より良く働き、仕事を通じて自己実現が図れるようにするというD&Iの原点を忘れずに、恐れることなく改革をリードしてください。皆さんを応援しています」