ホームセミナーセミナーレポート人事戦略フォーラム 2024年6月13日

セミナーレポート

人事戦略フォーラム

「現在、そしてこれからの人事」~ 先の読めない時代、人事に何ができるのか?~

株式会社HRファーブラ 代表取締役 山本 紳也 氏 

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今回の人事戦略フォーラムは、時代とともにその重要性が増し、役割や期待が急速に変化している「人事」の在り方をテーマにしました。株式会社HRファーブラ代表取締役の山本紳也氏をお招きし、時代の変化や期待される役割・責任、実態とのギャップ等について考えました。以下は講演の要旨です。

1.環境変化の規模とスピードが異次元になった時代

この5~10年の間に、私たちの生活や働き方、常識観等が大幅に変化し、異なる常識・多様な価値観の仲間と働き、マネジメントをしていかなければならない時代になりました。変動的・不確実・複雑・曖昧なVUCAの世界は、先が見えず将来を予測することが非常に困難な時代であり、過去の正解が必ずしも正解ではなく、正解のない中で、考え続け、変化し続けることが求められる時代でもあると言えます。最近では、BANI(Brittle:脆弱性・Anxious:不安・Non-Linear:非線形性・Incomprehensible:不可解さ)とも言われています。正解のないVUCAの時代は、ニューノーマル(新しい常識)ではなく、”ノーノーマル(常識のない)時代”の到来であると考えなければなりません。生産性を追求した”肉体労働の時代”であった昭和から、イノベーションや変革を追求した”頭脳労働の時代”の平成、そして価値創造を追求する”感情労働の時代”である令和へと、時代は常に変化し続け、そして今、大きな変化を遂げるべきタイミングに来ています。人の寿命が90年・企業の寿命が10年程度と言われる現代においては、Skillに加え、Willをベースとしたフレキシブルな雇用や契約が必要であり、また同時に理論上では5回のリスキルが必要であると考えられます。

2. 会社の在り方・人の働き方が変わってきた

目標やゴールを明確にし、そこに向けた戦略を考え実行していたこれまでの時代に対し、ノーノーマル時代では、目標やゴール自体を明確にすることが困難である為、如何にアジャイルに変化に対応できる体制を整えるかが重要です。今を充実させて生きる時代であるノーノーマル時代では、過去の成功等による人の『実績』ではなく、『人』そのものについて行く時代であり、人の評価やリーダーシップ論も変化したと言えるでしょう。コロナ禍での在宅勤務や働き方の多様性が高まったことにより、コミュニケーションが限定的かつその取り方の多様性も高まりました。個人の常識観や価値観が多様化する中で、どのように人をマネージし、どのようにチーム力を高めることが出来るかが問われています。

3.この時代、人事に求められていること

これまでとVUCAの時代に求められる人事の役割責任を整理しましょう。

【昭和の時代に築かれた成功ビジネスで求められた人事の役割責任】

・労務・労働者の安全健康管理
・終身雇用を前提とした、安心安全な働く場の提供
・終身雇用前提の格付けを基本とした、公平公正な人事制度の整備と運用
・公平公正な配置配属とジョブローテーションを活用した社員キャリアマネジメント
・組織人事管理における監査・警察的役割

【DX・AIがインフラベースとなり、VUCA時代に求められる人事の役割責任】 ※1

・変化の激しいビジネスに適した人材の獲得と確保
・労働市場を先取りした採用とリテンション
・多様化した人材のモチベーション創出とエンゲージメント確保
・多様化した人材を対象とした、働きやすさと働き甲斐の提供
・役割、成果、貢献を説明できる評価と報酬

人事・人材マネジメントにおける役割は、人事制度や就業規則等のハード面から、キャリア開発やモチベーション・エンゲージメント等のソフト面へ移行して来ていると言えます。実際に、「心理的安全性」「学習する組織」「ウェルビーイング」等のキーワードを昨今の研修やワークショップにおいてよく耳にします。これらは、本音で何でも話すことが出来、成長出来、イキイキと働ける職場のための言葉でもあり、これらがビジネス成果、業績向上、組織成長に繋がるためのキーワードでもあると言えます。「心理的安全」をつくるためには「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」の4つの要因があり、心理的安全な職場とは、誰もが自分らしくいられ、健全に意見を戦わせることのできる職場を表しています。 ※2「ウェルビーイング」とは、自分が自分らしく「幸福」や「充実感」を感じられている状態であり、従業員のウェルビーイングによって、組織の活性化・新規アイディアの創出・生産性向上に繋がることが証明されています。デジタル革命の渦中にある企業にとっては、組織がアジャイルであることは不可欠であり、常に最新の情報を察知し、獲得情報に基づき意思決定し、迅速に実行する必要性があります。
 VUCAの時代に求められる人事の役割責任は前述の5点 ※1に加え、更に以下の2点も必要となってくるでしょう。

・ステイクホルダーに対する組織人材価値の開示説明
・AI時代における組織人事・人材開発戦略
※2「心理的安全性のつくり方」より引用

4. 人事の役割再考

雇用・人事労務・人事制度・人財開発・組織開発等

「働き方改革」を改めて考えてみましょう。「働き方改革」は「働きやすさ改革(例:残業時間上限規制・有給休暇取得義務化等)」と「働きがい改革(例:心理的安全な職場環境・やりがいや成長の感じられる仕事等)」に分けて考えることが出来ます。前者は衛生要因であり、政府や企業が法や制度でインフラを整備しサポートします。人事の本来の仕事も会社特有の働きやすいインフラ整備と言えるでしょう。それに対し、後者は動機付け要因であり、法や制度遵守の上で、リーダーが環境を創造しサポートすべきものです。このようなことからも、「働き方改革」は人事の仕事であり、「働きがい改革」は現場マネージャーの仕事であると考えています。この後者に対し、人事はどこまでサポートすべきなのか。ビジネスを取り巻く環境が大きく変化している中、人事の仕事や部門の在り方・存在意義・役割責任を再考するタイミングに来ていると言えます。性悪説に基づく組織の監査警察業務から、性善説に基づくリーダーシップ開発やウェルビーイング業務まで、全て担当出来ますか。人事部長(組織の最適化を目指す役割)とCHRO(経営者として、経営にとっての最適判断を下す役割)は、全く別の役割責任を担うことを理解の上、組織化されていますか。

4つの観点に分けて、課題提起をしてみましょう。

① 雇用

ジョブ型・メンバーシップ型とは、元々、人事ではなく“雇用”用語であるため、人事制度ではなく、雇用・雇用契約の在り方の議論から入るべきでしょう。ビジネス戦略や組織も変化し、求められる専門性も短期で変わる時代に、求められる雇用形態をどう考えるべきか。正規・非正規雇用という枠を置くこと自体が正しいのか。ジョブ型・メンバーシップ型等、どれが良いかではなく、最も重要なのは、会社としてだけではなく、ビジネスとしてどういう雇用にするべきかという視点から考えることです。ビジネスを成功させ成長させることが目的であるはずです。多様な採用形態が必要かもしれません。ビジネスに合った学生市場形成を戦略的に仕掛ける必要もあるかもしれません。ジョブ型の雇用終了時に、メンバーシップ型雇用に切り替えるか、退職を選択するか、雇用戦略としての出口戦略も必要となるでしょう。人事業務の煩雑さが伴う為、雇用の決定と運用責任に関しては事業部門に移譲し、本社人事はそのインフラ整備とサポート役割に回ることが望まれるのではないでしょうか。
<ジョブ型・メンバーシップ型の違い>
・メンバーシップ型…メンバーシップ規程(就業規則)を持つ組織に、規程遵守の宣言の上、メンバー(社員)になる、雇用という名の(無期)所属契約
・ジョブ型…ジョブという限定した役割ポジションに、役割責任を果たし、求められる結果を出すことを約束して結ぶ、(有期)雇用契約

② 人事と人事部門

労務管理から、徐々にその役割が広がってきた人事・人事部門の仕事を、今一度見直すタイミングに来ていると言えます。人事とは、経営の一端なのか、事務管理業務なのか、監査業務なのか。どこまで個の対応が可能なのか。性悪説視点が不可欠な人事と、性善説が基本の人材開発が同部門で活動可能なのか。人事部門の役割を整理すると、現場のビジネスパートナーとの連携や、他部署・現場に移管可能であり、移管すべき業務も多数あるのではないかと考えています。

③ 人事制度

事業やビジネスが複雑化・多様化してきている中、求められる人材やスキルが変化し、労働市場も異なる場合、全社統一の人事制度には限界が来ており、その運用を見直すタイミングに来ていると考えます。一方で、会社やグループとしては統一のミッション・ビジョン・バリュー・パーパスが重要視されており、コンピテンシーやリーダーシップ行動の統一も重要かもしれません。ジョブ型が検討される中、人事制度の軸を「人」「職務・ポジション」「人の担う役割」の何処に置くのか。等級を明確にして、全社員が同じように語れるように考え方を浸透させることが重要です。これは簡単ではありません。また、全員が70歳まで戦力として働くことを考えた際に、働き方と人事制度を早期から明確にした上で選択可能にするべきであり、高齢者雇用を前提とすると、人事制度は若い時代から役割責任をベースにすることが必然になるでしょう。

④ 組織開発・人材開発

近年の人事業務において、組織開発・人材開発に関係する課題と業務の増加が顕著になっています。常にビジネス環境の変化するVUCAの時代では、一人ひとりが自律し、能動的に学習(リスキル)し続けること、また、チームで成果を出すマインドセットを持ち、心理的安全性が確保された場が存在し、常にコミュニケーションが活性化していることがより強く求められます。また、人材開発の投資とROIをよく分析する必要があります。研修を誰の何のために行っているのか、パーパスを明確にすることが重要です。「DX人材」という言葉もよく耳にしますが、これは”D”(デジタル)の理解度を高める話ではなく、”X” (トランスフォーメーション)の意識改革と行動変容が鍵であり、今一度DX人材の定義と開発プログラム設計が急務であると言えます。
人事が出来ることには限界があります。人事はファシリテータに徹し、現場で回し変化させていく土壌をいかに創っていけるのかが重要なのではないでしょうか。

本フォーラムを踏まえ、7月以降、特に重要なテーマについて全3回の少人数での分科会を開催し、個々の課題毎に山本氏を交えたディスカッションを行います。

◎フォーラムを終えて

  • フォーラムの内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

     ・大変参考になった= 64%・参考になった= 36%・あまり参考にならなかった= 0%・参考にならなかった= 0%
  • 参加者の意見・感想は・・・

    変化の速さに対する危機感を覚えた。また、そもそもの人事の在り方についての問いかけが非常に印象に残った。 日本の考え方の背景も理解したうえで、グローバルな柔軟な考えを提示していただき大変勉強になった。 人事を取り巻く環境、課題を網羅的に把握できとても有意義な内容だった。これからの自社の取り組みを考えるうえでのヒントにしたいと思う。 人事の機能を衛生要因と動機付け要因に区分けして考える点について、元来わかっていても再認識した。 事業部と本社人事の関わり方について気づきをいただける部分が多くあった。 環境や考え方の最新の動向や変化についてお聞かせいただき、人事としてこれからどのようなことを考えて、取り組む必要があるのか、考えるベースのヒントを本日沢山いただいた。時代に取り残されないように、新しい考えにアップデートして参りたいと思う。 環境変化が激しい現代における人事の在り方について大変参考になった。 これからの人事の課題を考える上でベース・前提となる現在の世界、ビジネス、人の価値観や意識の状況について、具体例を交えながら分かりやすく解説頂き、大変参考になった。 答えを示すというより、課題を問いかける形のセミナーでとてもよかった。 変化を感じ、変化していかなければならないとより強く思った。
  • 登壇者の感想は・・・

    株式会社HRファーブラ 代表取締役 山本 紳也 氏

    株式会社HRファーブラ 代表取締役 山本 紳也 氏

    「これからの人事・人材マネジメントは、社長も人事部も、現場のマネージャーもコンサルタントも、誰もが正解を持たない中、皆で一緒に考え、模索し続けていかなくてはいけないといえるでしょう。今後も少しでもそのような場創りの一助になれれば幸いです。引き続き、考えていきましょう。」