ホームセミナーセミナーレポート人事戦略フォーラム 2025年5月14日

セミナーレポート

人事戦略フォーラム

人材・組織の強化とウェルビーイングを両輪で進めるコカ・コーラ ボトラーズジャパンの人事戦略
~ワークとライフの自律的な選択による個々の力の最大化~

コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 執行役員 CHRO 東 由紀 氏

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現在の経営環境において、従業員のエンゲージメントを高めながら持続的な成長を実現するには、「人材・組織の強化」と「ウェルビーイング」の両立が不可欠です。では、この2つの要素を調和させつつ、効果的に推進する要石になるものとはなんでしょうか。
そこで今回は、コカ・コーラ ボトラーズジャパンの東氏をお招きし、同社が取り組むウェルビーイング戦略についてお伺いしました。社員一人ひとりが自らの「ワーク」と「ライフ」を主体的に選択し、最大限の能力を発揮できる環境づくりとはどのようなものか。その実践的なアプローチを、具体的な事例とともにご解説いただきました。
以下は講演の要旨です。

弊社は、米国アトランタに本社を置くザ コカ・コーラ カンパニーの子会社である日本コカ・コーラ株式会社とフランチャイズ契約を結び、製品の製造販売を行っている日本企業です。戦後、日本各地で立ち上がったボトラー社のうち、12の会社が2017年に統合されて発足。1,000〜6,000人規模の中小企業が、統合により一気に14,000人規模の上場企業となったため、様々なプロセスや方針、ポリシー、システムをはじめ、企業文化の統合に大きな問題を抱えています。そうした経緯から、経営トップが宣言した「これまでのやり方は選択肢にない」を変革のキーワードに、全社横断で変革プロジェクトを進めている最中であることを、最初にお伝えしておきます。

中期経営計画「Vision 2028」

2023年に、収益性と資本効率を重視した2024年から2028年の5年間の中期経営計画「Vision 2028」を策定。「営業エクセレンス」「サプライチェーンの最適化」「バックオフィスおよびIT機能の最適化」を3本の柱として、利益を伴う成長と変化に強いコスト構造の構築を目指しています。その基盤となるのがESG、人的資本、財政基盤の強化です。
私たちは「人的資本の強化」を促進するために、「人材・組織」と「カルチャー」という2つの観点から「人的資本の目指す姿」を描きました。様々な施策を実施する際は、必ずここに立ち返って「この施策は、目指す姿の中の何を実現しようとしているのか」を確認することが重要です。その上で「人材・組織の強化」と「ウェルビーイングを促進するカルチャーの醸成」の両輪で変革を進めています。

人材と組織の強化

社員一人ひとりが強い自律性を持ち、行動するためには、個人と組織のパフォーマンスを重視する評価・報酬制度を徹底し、個人の成長と会社の目標の両方を達成することが求められます。具体的には「年間の業績・行動評価のサイクル」と「自律的なキャリア実現のためのキャリアプランのサイクル」という2つを連動させることが必要となります。キャリアプランと能力開発プランを策定し、上司との面談サイクルの中で、支援を受けながら実現を目指すことが大切です。
キャリアは、仕事だけでなく家庭事情や健康面などの影響を受けるので、中期で考えることが大切です。これを明文化することは強制ではありませんが、上司や会社に知っておいてほしいことはきちんと伝えることも必要です。「個人的な事情を伝えると評価やキャリアに悪影響があるかもしれない」といった不安を持つことは良い環境ではありません。上司の側も、プライベートな事情は聞きにくいと思いがちですが、そうした思いを払拭し、会社から対話を働きかけることで、社員のキャリアを上司・会社が支援する。そんな体制を整えることが、本人のモチベーションやエンゲージメントの向上、さらに一人ひとりのウェルビーイングにつながるのだと考えています。

こうした仕組みの導入と並行して、パフォーマンスドリブンカルチャーの浸透を図るために3つの取り組みを行っています。

1. 評価者研修

社員の多様な価値観・働き方を踏まえ、その人のポテンシャルを最大限に引き出し、成果に基づく公正な評価を行うことがテーマ。新たに管理職になった人だけでなく、管理職は毎年受講します。

2. アンコンシャスバイアス研修

無意識に抱いてしまう思い込み、自分だけの常識、これまでのやり方などが評価に悪影響を及ぼすことを防止。多様な価値観・働き方をする人たちを公正に評価し、機会を与えられるようになることがテーマです。

3. 総報酬ステートメント

給与・賞与・福利厚生等のベネフィットを合わせて分かりやすく示すステートメントを提供。社員一人ひとりの成果がどのように報酬に反映するかを可視化することで、成長意欲とエンゲージメントを高めます。

もう一つ重要な施策として、変革リーダー育成プログラム“コカ・コーラ ユニバーシティ ジャパン(CCUJ)”を実施しています。変革には非常に大きな労力と覚悟が必要です。社内各部門で変革をリードする人材を育て、変革を楽しむ風土を醸成するために、選抜制プログラムとして2020年にスタートしました。
営業部門、製造部門、管理部門の各部門から変革のリーダーとしてのポテンシャルがある人を選抜し、年に一度人材会議を実施しています。変革リーダーとして重要なケイパビリティを「イノベーション」「戦略的思考」「ピープルマネジメント」「エフェクティブコミュニケーション」「グロースマインドセット」と定義。業務と成果に応じた評価に加え、この5つの軸がある人を選抜してもらっています。1つのプログラムは約6カ月間で、階層ごと(若手社員層、中堅社員層、課長層、部長層、次期経営幹部候補者層)に実施。2020年からこれまでに485名が卒業しています。

社員のウェルビーイングを促進するカルチャーの醸成

会社と社員が持続的に成長し続けるためには、社員が心身ともに健康で、働きがいを持って活躍できる環境を整え、ウェルビーイングを推進することが重要です。弊社は社員のウェルビーイングを経営戦略に紐付く重要な課題と位置づけています。そうしたカルチャーの醸成にはトップのコミットメントが必須なので、弊社は代表取締役社長が健康経営責任者を兼任。経営層を巻き込みながらグループ全体で健康経営を推進しています。
ウェルビーイングは心身の健康に特化したものと思われがちですが、それだけではありません。弊社では「フィジカル(心身の健康)」「キャリア(キャリア自体)」「ソーシャル(チーム力の向上)」「ファイナンシャル(お金と人生のバランス)」「コミュニティ(働く誇りとつながり)」という5つのエリアで定義。生産性の向上とエンゲージメント向上を目指し、取り組みを加速しています。多岐にわたる取り組みの中から、以下の3つをご紹介します。

① 健康促進

フィジカルな健康促進としては、組織として健康課題を解決するための施策と、個人が自律的に健康を促進するための仕組みづくりを推進しています。組織としては、優れた健康増進の取り組みをしたチームを表彰する「健康増進アワード」の設定や、禁煙の推進など。個人としては、全社員に提供しているスマホに歩くとポイントが貯まるアプリを搭載するなど、様々な取り組みを行っています。

② 柔軟な働き方の推進

すべての社員が、違いに関わらず自分らしく能力を最大限発揮できる働き方を選択できるよう、柔軟な働き方を推進しています。たとえば、在宅勤務やサテライトオフィスの利用、スーパーフレックス制度など様々な働き方ができる環境を整備。ワークライフマネジメントの観点からは、有給休暇取得目標を設定したり、法定以上の時間外労働の上限基準を設定したりするなどワークライフマネジメントの実現にも取り組み、ウェルビーイングのリーディングカンパニーとして「優良福利厚生法人(総合)」を受賞しました。
「柔軟な働き方が行き過ぎるとチームワークが取れないのではないか」という声を耳にすることがありますが、それは取り組みを抑制する理由にはなりません。会社に属している限り、私たちには会社の持続的成長という共有ミッションがあり、組織で成果を出すことが求められます。個人の自律的成果は必須であり、そのために重要なのが、最も生産性が高く成果が出せる働き方を実現する制度です。最初から100%できるわけではありませんが、人事としては「自律的に責任を持ってやってください」というメッセージを発信しつつ、選択肢を渡すことがミッションだと考えています。

③ 多様性が活きる会社の実現

多様な価値観、経験、属性を持つ人材が、違いを強みとして活躍できる職場環境が整備されていること、つまり多様性が活きる会社の実現を目指しています。そのためには多様な人材が職場に「居る」だけでなく、インクルージョン(包括)とエクイティ(公正)が実現していることが必須です。イノベーションは違いがぶつかり合うことで生まれるので、年次や職位、経験年数、性別、国籍ではなく、スキルと成果を見極めながら、多様な人材の活躍を推進することが重要だと考えています。具体的には、LGBTQ+とアライ/ジェンダー/男性育児休業等/障がい者 の4つのエリアを優先課題として取り組み、協働して一緒に成果を出していく風土を醸成しています。

様々な施策は、導入して研修を重ねることが目的化したのでは意味がないので、それぞれKPIを持って取り組んでいます。社員のウェルビーイングの状態を測るために定期的にエンゲージメントサーベイを実施。各部門の課題を分析し、具体的な改善アクションにつなげています。

「人事は人的資本の強化を通じて経営戦略を実現に導く」
これは、人事戦略を率いる者として意識していることです。そのために大切なのが従業員一人ひとりのウェルビーイングやエンゲージメントであり、自律性と多様性が成功の鍵となると考えています。
もちろん、私ひとりでできることではありません。CEOや経営層とタッグを組み、経営会議の中で人事戦略のプライオリティと施策について話す時間をしっかり取り、重要なKPIに関しては執行役員の業務目標に設定する。また、人事にできるのは、施策を設計して運用するまでなので、確実に実施するためには各部門を強力に巻き込み、支援することが重要です。何を実現するためにこの施策をやっているのかを言語化し、人事組織の持つ推進力を強化する。HOWではなくWHYを考えることで、人事戦略は成長する絶好の機会だと考えています。

◎フォーラムを終えて

  • 参加者の意見・感想は・・・

    持続的成⾧のカギが自律性と多様性であることが講演を通じて改めて感じることができました。 人的資本経営という言葉だけが先行していると感じていたので、具体的な内容・取組み・課題が知れてとても参考になりました。 今まで社内面談等は実施されていましたが、何を目的として実施しているのか・どのようなことを伝えるべきなのかが良く理解できないまま面談に臨んでいました。今回のセミナーで、管理者側はどのような回答を求めているのかを理解することができ、次回に活かしたいと思います。 弊社はまだ取り組み始めたばかりの施策もあり、先行事例を伺えて大変勉強になりました。 人的資本経営において、KPIを経営層と話しあうことがどこの企業もなかなか難しいとされている時代で、時間を確保されて話しあいをおこなっているという点はとても参考になりました。 「必ず目指す姿に立ち返り、目指す姿の何を実現しようとしているのかを明確化して、施策を作り、変えている」と仰っていたのが印象的でした。企業規模が大きく、様々な良い取り組みをしていても、何のためにやっているのか、それぞれの施策の目指す先は何なのかが、意識されづらくなっている現状を認識しました。人事として今一度ありたい姿に立ち返りたいと思います。
  • 登壇者の感想は・・・

    コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 執行役員 CHRO 東 由紀 氏

    コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 執行役員 CHRO 東 由紀 氏

    「あらためまして、この度は貴重な機会をいただき誠にありがとうございました。
    多くの参加者の方々から活発なご質問やご意見を頂戴し、テーマへの関心の高さを強く感じました。お忙しい中、熱心にご参加いただき誠にありがとうございました。
    ビジネスの変化が激しく不透明な状況が続く今、人事が果たすべき役割を見つめ直し、未来志向で考えていくことは喫緊の課題です。今回の講演が、皆様にとって、それぞれの組織における人事戦略や具体的なアクションプランを検討する上での一助となれば幸いです。」