日本企業における経営陣サクセッションの現状と課題
~役員選びはオープンに行われていますか?~
コーン・フェリー・ジャパン株式会社 コンサルティング部門責任者 柴田 彰 氏
このセミナーの案内を見る経営層のサクセッションプランは、いま多くの日本企業で「形式」から「本質」への転換期を迎えています。
各種リサーチによれば、「社長候補の人材要件を具体的に定めている企業」は過半数に満たず、指名委員会や社外役員の関与も限定的な企業が少なくないのが現状です。後継者育成の必要性は広く認識されているものの、選定基準や育成プロセスの具体化には、いまだ課題が残されています。
一方で、「誰を対象とし」「どのような資質が必要で」「どう育成するのか」といった本質的な問いに向き合う企業も現れ始めています。コーポレートガバナンスに対する機運の高まりを受け、形式整備の段階から、意思決定と実行の質を問う“第二ステージ”への移行が、今、静かに進行しています。
そこで今回は、取締役会改革や経営人材育成に豊富な実績をもつコーン・フェリー・ジャパンの柴田彰氏を講師に迎え、日本企業におけるサクセッションプランの現状と課題を、最新の調査データと実務知見の双方から紐解きました。
以下は講演の要旨です。
日本企業における経営陣サクセッションの現状と課題
コーン・フェリー・ジャパン株式会社 コンサルティング部門責任者 柴田 彰 氏
ここ数年、日本企業でも社長・CEOを中心とした経営陣サクセッションに対する意識が高まってきており、取り組みに大きな変化が見られるようになりました。その一方で、経営者選びが透明性を持って行われてきたとは言い切れません。今回は、コーン・フェリーが実施した実態調査の結果を基に、日本企業がこれから考えていくべき点についてお伝えします。
日本企業において、経営陣のサクセッションプランに対する需要と関心が急速に高まっている背景には、大きく2つの要因があります。
●外的要因=株主や投資家からの要請
コーポレートガバナンス・コードの適用以降、サクセッションプランに対する説明責任が求められるようになり、外形的な仕組みを整える企業が出てきました。ただし、まだ改善の余地があります。
●内的要因=自社のサステナブルな成長の実現に向けて
今後の事業成長のためには、これまでと異なる資質を持つ人材を登用することが不回避だと考える経営者が増加。従来のやり方では同タイプの人材を再輩出してしまうリスクがあるため、経営執行サイドからも見直す機運が高まっています。よりサステナブルな経営人材の輩出に向け、人材育成のパイプラインを太くしようとする先進的な企業も出てきています。
まず「経営陣サクセッション」の定義を明確にしましょう。
●経営陣=社長・CEOの直轄部下で構成される、全社の方向性を定める執行側の最高意思決定機関のメンバー。
●サクセッション=該当ポジションに期待される機能・役割を担うことができる後継人材を確保するための一連の取り組み。各ポジションの選任基準を策定した上で、社内候補者のノミネーション・評価・育成に加え、社外候補者のベンチマーク・採用までの活動を含む。
経営陣サクセッションを考える際のステップは以下の通りです。日本企業の多くは「2nd」、一部の先進的な企業が「3rd」の段階にあるといえます。
1st:ステークホルダーへの説明力を高める
社外取締役、あるいは投資家を中心とした株主に対して、経営陣のサクセッションプランの説明力と透明性をいかにして高めるか。選任の基準やプロセスを第三者に説明可能な客観的な形に仕立て上げることが必要。
2nd:短期的なサクセッションの成功率を高める
サクセッションの成否を分けるのはCEOなど各経営ポジションの次の後継者に最も相応しい人材を見極めることができるか否か。これからの経営戦略やビジョンから各ポジションの人材要件を落とし込み、その要件に照らし合わせてサクセッサーを多面的に診断することが重要。
3rd:将来を見越して、サクセッサー(後継候補者)の質を高め、量を増やす
サクセッションプランを一過性の人選びで終わらせず、育成に踏み込むことが必要。各経営ポジションのサクセッサー育成だけでなく、次世代以降のサクセッサーを育成する仕組みとプロセスを構築することも重要。
日本企業を対象に経営陣サクセッションに関するアンケート調査を行ったところ、回答企業の82%が何らかの形で経営陣サクセッションに取り組んでおり、60%は指名(諮問)委員会もしくは経営会議の公式アジェンダとしてガバナンス/経営上の優先課題として位置づけています。
この調査から見えてきた課題と対応策は3つです。
①執行体制の改革が進まずサクセッションの前提が定まらない
サクセッションの基本原則は「箱を作り、人を当てはめる」です。喫緊の課題は、前提となる執行体制と機能を考え抜くこと。人ではなく機能として経営執行体制を見直し、経営トップチームのメンバーを定めて、各ポジションの役割を明確にすることで、サクセッションの前提が整います。
では、経営トップチームはどのくらいのサイズ感が適正なのでしょう。TRANSFORM(攻め)の経営では、少数のメンバーによるトップダウン型で機動力を重視することが望ましいと考えます。一方、PERFORM(守り)の経営ではボトムアップで擦り合わせしながら進めるため、人数が多い方がいいでしょう。両利きの経営が求められる今日、その時点のウェイトにより経営トップチームのサイズと機能を調整する必要があります。
②CXOの戦略的な育成が進まない
企業としてCXO体制を採用しているにもかかわらず、CXO体制をとることの意味合いを明確に定義できていない、という声が多数聞かれました。CXO候補の育成に不可欠なポジションごとの要件整備も進んでいないため、まずはポジションごとに要件を分解し、選任基準を設定することが必要です。
すべてのCXOに共通する要件として「ビジネス・経営感覚」「グローバルの視野」「変革推進力」が挙げられます。これに加えて、「専門性」「自社文脈の理解・社内人脈」の優先度をポジションごとに追加・検討すべきです。日本企業ではP&L責任をともなうジェネラルマネジャーとしての経験を重視する傾向にありますが、将来の多様なシナリオへの対応力を高めるためには、専門性を優先した育成も検討すべきでしょう。
多くの日本企業はサクセッションプランに着手したばかりで、計画的な育成は始まっていないのが実態です。サクセッサーは一人ひとり特性が異なりますが、サクセッションプランは長くても4〜5年が限度。人材要件を整えて効果的な育成計画を策定するには、一足飛びに育成施策を考えるのではなく、必要な検討材料を揃えた上で順序立てて進めることが重要です。
③外部から異能を引き入れ機能させることが難しい
経営トップチームメンバーに関する課題として、多様性不足と社外の市場競争力を意識した人選が進んでいないことが挙げられます。経営陣の候補者を外部から採用することへの抵抗感は薄れているようですが、早い段階から積極的に異能を引き入れようとする姿勢は一般化していません。
企業によっては社外人材の登用が必ずしも最適解ではない場合もあります。しかし、各経営ポジションに適した人材が社内にいない場合、社外からの登用も一度は視野に入れるべきです。今後は早い段階から積極的に異能を引き入れる姿勢を持ち、獲得した外部人材を早期に機能させるための追加努力が必要になるでしょう。
◎フォーラムを終えて
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参加者の意見・感想は・・・
サクセッションプランに係る課題が整理されており、今後の検討時に参考になる情報でした。 事業部のトップとCXOとどちらが上なのか、誰が経営メンバーなのか、どのポジションにサクセッションプランが必要なのか、日系企業のあいまいさに踏み込む内容で、参考になりました。 結局、経営チームの定義づけやCxOの要件が明確化されないと、議論が進まないことがわかり、課題感と一致して腹落ちしました。 指名委員会事務局として、CXOサクセッションプラン策定を今年度の課題として取り組んでおり、大変参考になりました。 ひとくちに経営者候補といっても、CFO、CHROなど専門領域ごとに選任要件や育成が必要ということを改めて理解しました。 サクセッションプランについて個人が考えている課題認識のすり合わせができた点と他社事例があった点が非常に良かったです。 -
登壇者の感想は・・・
コーン・フェリー・ジャパン株式会社 コンサルティング部門責任者 柴田 彰 氏
「日本における経営陣サクセッションの取り組みは、まだ緒に就いたばかりで、これからの高度化の余地が大きいものと思います。日本企業の実態に即したサクセッションの形が、早く見つかることを願うばかりです。」