社会的価値を通じた人づくりと組織づくりの可能性
~アサヒ飲料のCSV活動が社員に与える影響の検証から~
アサヒ飲料株式会社 秘書室室長 松本 加奈子 氏
東京女子大学 准教授 正木 郁太郎 氏
企業経営において「社会的価値の創出」と「人材・組織の活性化」をいかに結びつけていくかは、今や人事・経営双方にとって避けて通れないテーマとなっています。CSV(Creating Shared Value)経営はその有力な方法論として注目されていますが、実際に社員の意識や行動、エンゲージメントにどのような影響を及ぼすのかについては、十分に語られてきたとは言えません。
今回は、アサヒ飲料株式会社が継続して取り組んできたCSV活動を題材に、社会的価値を通じた人づくり・組織づくりの可能性を、当事者の視点と、社会心理学の専門的知見から、「なぜCSV活動が社員のエンゲージメントを高めるのか」「その効果を高めるために何が重要なのか」を多角的に掘り下げます。
第一部は、アサヒ飲料株式会社の松本氏に、これまでのCSV活動の詳細を伺いました。
第二部は、東京女子大学の正木准教授が社会心理学の観点から活動のポイントを解説していただきました。以下は講演の要旨です。
【PART1】講演
アサヒ飲料のCSV活動が社員に与える影響
〜非人事部門の取組み〜
アサヒ飲料株式会社 秘書室室長 松本 加奈子 氏
アサヒ飲料株式会社 人事総務部 秘書室でリーダーをしております松本加奈子と申します。経歴は2005年に「カルピス株式会社」に入社して研究所、マーケティング部門を経て、経営統合によりアサヒ飲料に入社しました。2023年から今の秘書室に来ています。2018年に研究開発戦略部という研究部門で取り組んだ話を本日させていただきます。研究所在籍時の所属部門は研究開発本部という100人前後の部門の横串を刺すような機能を持つ部門でした。全体の戦略を立てたり、組織活性化、研修等を行う中、健康飲料開発の学術支援、行政と折衝、本日のテーマであります「CSV活動」を推進という役割を担っていました。
当社の説明に入る前に親会社アサヒグループホールディングスの概要を紹介します。「アサヒ」というと「アサヒビール」のイメージが強いと思いますが、アサヒグループホールディングスの国内事業としては、お酒、飲料、食品の3本柱があり、弊社は「国内飲料事業」を担う会社で、設立が1982年で従業員数は2300名程です。業界シェアは2004年14.2%で業界第三位となります。日本の飲料メーカーの中で100年以上のブランドを3つ持っているメーカーは当社だけです。「三ツ矢サイダー」が142年。「ウィルキンソン」も120年以上。「カルピス」も100年以上です。
当社の『ビジョン』は『社会の新たな価値を創造し、我々の「つなげる力」で発展させ、いちばん信頼される企業となる』を掲げています。あらゆるステークホルダーの皆様と約束することを『社会との約束』という言葉で定義づけており、『100年のワクワクと笑顔を。』を合言葉としています。『飲み物を通して、世の中を明るく、楽しくする。』そのような次の100年をつくっていきたいという気持ちです。
「CSV」はMichael E. Porterが発表した「共通価値の創造(CSV)」という論文の概念になり、当社では『健康』『環境』『地域共創』という3つのマテリアリティ、重点領域を設けております。それらの一部の取組みをご紹介します。1.マテリアリティ『健康』:①心と体と社会の健康に貢献する:「トクホ」や「機能性飲料」といった飲み物を通じて日常で健康になっていただく。②生活のリズムを整える:睡眠の質を良くする飲料で睡眠の質と生活の一日のリズムをしっかり整えて、全ての基盤をつくる。③社員が健康になり、広げる:「Walk for smile」として社員の歩数に応じ飲料を寄付する。アサヒ飲料、アサヒグループのアセットを使って皆様の健康に貢献する。
2.マテリアリティ『環境の取り組み』:①新たな資源を使わない:「リデュース」です。当社は「ラベルレス」飲料を業界に先駆けて行い、最近は「シンプルエコラベル」も出しています。②使ったものを有効利用する:ペットボトルのリサイクル化。③温室ガスを排出しない:「CO2を食べる自販機」周りのCO2を吸収する自販機を最近開発して、杉の木に換算して20本分くらいのCO2を吸収します。5万台の「CO2を食べる自販機」が実現すると東京ドーム1000個分くらいの森林に相当するCO2吸収能力があります。環境配慮の商談の前にオフィスロケで「CO2を食べる自販機」を置いていただくと商談も話が弾むという声もいただいています。3.マテリアリティ『地域共創の取り組み』:①地域の健康・環境へ貢献する:森づくり、自然保護。②地域を担う将来世代を育む:今回の主題「将来世代を育む活動」です。何十年も行っている「カルピス」をひなまつりの時期に幼稚園に配り、お子様の成長を応援したり、家族とのコミュニケーションを促進する。中高生向けの研究支援活動。③ゆかりの地でつながりを育む:当社にご縁のある地域を盛り上げるための活動。「ウィルキンソン」を宝塚市のプロモーションに使っていただく。「三ツ矢サイダー」は川西市の地域イベントを盛り上げる。地域の方にも喜んでいただき、人が来ていただけるような街づくりを応援しています。
「CSV活動」を『健康』『環境』『地域共創』と「本業の中で行う活動」「越境性が強い活動」で整理します。①「本業の中で行う活動」:「健康飲料」や「環境負荷低減」は通常の飲料を作って売る活動。②「越境性が強い活動」:こども向けの教室「カルピスこども乳酸菌研究所」や本日お話しする中高生向けの研究支援「サイエンスキャッスル研究費」です。通常の飲料を作って売る活動以外に、社員それぞれが時間をとって活動するような内容になります。
今日お話しするのは「サイエンスキャッスル研究費」という研究開発本部が行っている中高生の研究支援の活動です。「サイエンスキャッスル」を始めた背景を紹介すると、ルーツは結構古くて2008年頃に旧カルピスの「CSR活動」で行っていた「理科実験教室プロジェクト」に端を発します。当時はまだ「CSR」として、何か社会貢献しようとして行っていた定期的な「CSR活動」です。アサヒ飲料とカルピス統合の後、2019年「カルピス」ブランド100周年をきっかけに「研究所」で発案して、「サイエンスキャッスル研究費」が始まりました。
2019年に始まった「サイエンスキャッスル研究費 アサヒ飲料賞」は、中高生から研究テーマを募集し、年間5件程度採択します。研究費を支援させていただくだけでなく当社の社員が1名ずつアドバイザーとして半年間研究をサポートするという活動です。流れは毎年春頃に、全国の中高生向けに「サイエンスキャッスル研究費 アサヒ飲料賞」の研究テーマ応募の告知をします。その後、アドバイザーの意見を元に採択して、7月から12月の半年くらい、社員によるメンタリングを実施。12月に成果発表会を行い、一旦の区切りとします。イメージを付けていただくために詳細のステップを説明すると、①研究テーマの募集を行います。春頃にホームページやポスターで、『健康』『環境』『地域共創』に関わる研究や開発の募集を出します。対象は中高生と一部高専生も募集します。研究を本格的に行っている学校や全く研究を行ったことがなくクラスの友人と応募した学生、部活、SDGsの授業からテーマを発見した学生さん等、非常に多様です。②研究テーマの募集と同時に社内からアドバイザーになる社員を募集します。研究テーマに合わせて5名の社員に協力してもらう必要があるため、社内の説明会を実施して、アドバイザーになる人を社内で募集します。アドバイザーの職位は問いません。新入社員でもグループリーダー等、リーダー層でも構わないので誰でも応募できます。ここでこだわっていることは、指名しないこと。必ず手上げで興味のある人にやっていただきたいと思っております。③全国から数十件の研究テーマが集まり、そのテーマと内容を踏まえて、アドバイザー社員の意思で研究テーマを決めます。この審査には本部長といった役員クラスも入りますが、上層部の意見で審査するのではなく、「アドバイザーが応援したい」で決めるということを徹底しています。研究として優れている必要は全くなく、熱意や着眼点、社会に対する眼差し等、アドバイザーが応援したいと思ったテーマを選んでいただくようにしています。④採択されるテーマが決まりますと、7月頃から研究活動への伴走が始まります。最初は学校訪問して、半年間、基本的にはオンラインでのメンタリングになります。指導ではなく、メンタリングとして基本的に生徒の主体性を尊重するスタンスです。ただ、中高生は研究のノウハウもありませんし、意外と基本的なことが分からなかったりするので、例えばアドバイザーは「このテーマどういうきっかけではじめたのか」というところを聞き出すようなこともします。実験計画が上手く立てられない生徒さんに対して、「最初にそれをやるのではなく、先ずはこちらを確認してからやる方が効率的」というアドバイスをすることもあります。一方で生徒が「いっぱいデータを取ったのだが、どうしたらよいか分からない」が結構発生して「優先順位をどのように付けようか」「目的はなんだっけ」とアドバイスしたり、基本的には生徒が主役というところを徹底してアドバイスしています。この活動を半年続けて⑤12月に成果発表会を実施します。この時は当社に来ていただき、発表の場を設ける。将来の研究者になるか分かりませんが、研究者になる学生さんにとっては貴重な機会なので、舞台を用意します。なお、昨年は成果発表会に紐づけて研究所見学をしていただきました。「プレゼンテーション」「ポスター発表」を設け、経験していただく。発表が優れていた学校には最優秀賞を決めるイベントとして実施しています。この場は学生同士のコミュニケーションや、アドバイザーと生徒がコミュニケーションをしていただくという、非常に和やかな会になっております。
ここからが本題になります。私は「CSV活動」の事務局として参加していました。当初は「役に立って良かった」「社会貢献できて良かった」という声が得られるかと想定していたのですが、ほぼ100%の社員から「モチベーションに繋がった」「もっとすぐにやりたい」「新しい勉強を始めた」「キャリアをもう一度考え直した」「誇りが持てた」等ポジティブな声が聞こえてきまして、稚拙な言葉なのですが「凄い活動だ」「凄いものを見てしまった」と思いました。年に5人のアドバイザーの活動なのですが、「これは是非続けていくべき」ですし「何らか、これを使ったら会社がもっと大きく変わるんじゃないか」ということを凄く思いました。しかし、この効果を周りの方に説明して、伝えていくことは非常に難しかった。(アドバイザーが)5人しかいないということ、学生とのやり取りやアドバイザーの心の中に起こった変化という、クローズな世界で起こっているものを隣の部署の部長に伝えられるかというと、なかなか難しい。生々しい話をすると来年の継続の予算が取れるかどうか、結構毎年ヒヤヒヤしていたところがあり、凄いことをやっているのにどうしたらよいのだろう、と思っていました。当時、コロナとか、若手の離職の話がありましたので「これをなんとか可視化する」。そして「社内外に広めていくことができないのか」「この私が見てしまった凄い効果のある、影響のある活動をもっと推進していけないか」というのが私の課題意識で今回の調査研究のきっかけになりました。
私がモヤモヤを抱えていた中で、今日ご登壇いただく正木先生を尋ね「このようなことを行っているけれども、相談に乗っていただけないでしょうか」と私から投げかけさせていただきました。「CSV活動」は財務価値、社会価値の両方を作ることですが、実は人材育成価値という第三の価値があるのではと私が熱弁させていただきました。初回に私が正木先生に持って行った資料の抜粋を紹介すると、「CSV活動」を行うと「社員が学びと気付きを得る」ことを経て「凄く社員が前向き」になり、この変化が「エンゲージメント」や「新しい価値を生み出す」に繋がり、「CSV」の実現や「社員のWell-Being」にも確実に繋がっている。私は確信に近いと思っていたので語らせていただき、(正木先生に)ご協力いただきました。社内向けの説明としては、「CSV活動」はエンゲージメントやモチベーションに影響することを証明するだけでなく、その要因を明らかにして、他に転用できるようにするというところを承認してもらい、研究を行いました。全体のスケジュールは秋9月頃に正木先生にご相談して、その年の末頃に正木先生に「サイエンスキャッスル」はどのようなものなのか知っていただくために、社員10名程度にグループインタビューをやっていただきました。その後、定量調査を行いまして、その結果を今日、正木先生からお話しいただきます。最終的に業務といたしまして社内報告会としました。本部長(役員クラス)、部長陣、全てのグループリーダーに参加いただき、このような効果があることの訴求と意見交換を行い、最終的には学会発表に繋げていただきました。導入の話は以上となります。ここからは後半の正木先生のパートに移ります。
【PART2】講演
社会心理学の視点から見たアサヒ飲料の施策
〜本当に、なぜ、エンゲージメント向上に有効なのか〜
東京女子大学 准教授 正木 郁太郎 氏
私の話は松本様の続編として、実際どのような研究に取り組んできたのか、得られた結果からどのようなことを考えたのかを中心に紹介します。感情・心理というものが関わるテーマということで今回の【アサヒ飲料】の「CSV活動」が財務価値やマーケティング・広報の意義を超えて、人材育成や組織作りにどのように有効になるのかを研究結果の紹介と一緒に考える時間とします。
松本様の話を一言でまとめると「きっとCSV活動は参加者のためにもなるはず」というのを非常に強い熱意と何かしらの確信でぶつけていただきました。それに関して私の側からすると「そう言っているだけではないか」という解釈も当然ありえました。しかし、「そこまで思わせる何かがある」且つ、非常に論理的な説明なので、「何かがそこに実態があるはずではないか」と思い、「実際に研究してみようか」とか、「過去に言われている心理学の色々な理論と合わせたらどうなるか」、組織運営全体という観点で非常に重要な意味を持っているのではないかと考え、研究をやってみようとなりました。特に、3点が決め手になりました。
①《「絶対に効果がある」という現場の声》は「絶対に効果があるはずだ」という何かの確信をもってぶつけていただいたので、「何かがあるんだろうな」と思ったこと。
②《エンゲージメント向上の、具体的な施策の種に?》昨今、従業員のエンゲージメント向上等が話題になりますが、研究の視点からするとエンゲージメントを測ることはできても、向上させる方法が、これという決め手を欠いている状況かと思いますので「CSV活動」が具体的に何か取っ掛かりになるのではないかと思う。
③《社会心理学の理論からも妥当な仮説に思えた》は社会心理学の理論や研究の観点からも何か可能性を秘めていると思ったこと。
どのような理論、どのような観点で関心を持ったのかを紹介します。
①「感情や心理」:「感謝の研究」等で紹介していますが、組織のマネジメントでは報酬や契約、指示・命令をして従わせる等、人の合理的な側面を重視しがち。一方で、人間どうしても感情に左右される生き物なので、良い方に転べばそれがモチベーション、エンゲージメント、Well-Being。「そこまでやれ」と言っていない、あるいは自分のために何もならないにも関わらず、後輩の面倒を見るとか、自分のノウハウを教える等、人にとって感情は合理性を超えたプラスのこともするし、メンタルをやられてしまう等マイナスの方に転ぶ。組織は合理的な側面だけでなく、松本様にご紹介いただいたように「何か、やってみて充実している」とか「嬉しい」「楽しい」といった感情も、重要と思っている。
②「向社会性」:専門用語を含めて二つ紹介します。ⅰ「向社会モチベーション」:松本様にご紹介いただいた「サイエンスキャッスル研究費」のように、何か人の役に立つことが、人間にとって大事なものではないかと、ここ10年、20年位で研究の中では言われています。人間って、どうしても自分のためだけに動くというよりは「誰かのため、何かのため」に動く、これがモチベーションの仕組みとして、最近指摘されています。人の育成みたいなものもあれば、困っている人を助けてあげるとか、逆にそれが行き過ぎることによって何か自分を犠牲にして、自分が非常に苦しみ、追い込まれても人を助けようとする。人間にとって「誰か・何かのため」というのは重要なポイントと言われています。具体的に関連する言葉として「向社会的モチベーション」、つまり社会に向かうようなモチベーション。人が自分のためよりは「誰か・何かのため」に役立とうとするモチベーションが刺激されると、揺り動かされる。それにより、何か助けてあげようとか、主体的に行動しよう、何か人のためというモチベーションも大事なのは「向社会的モチベーション」で説明できます。ⅱ「自己決定理論」:人のモチベーション理論で、コーチングの時等に使われます。こちらの理論の核は人のモチベーションの仕組みを考えたときに人間には欲求が3つあり、①「自律性」:人間自分で決めたときにモチベーションが上がる。逆にやれと言われたらやる気をなくすということ。②「有能感」:自分が成長しているとか、自分ができると感じられたときに人はモチベーションが上がる。③「関係性」:重要なポイントになるのですが、「自律性」「有能感」のような個人を超えて、人間は誰かと良い関係を築いているときモチベーションに通じる。その誰かというのは人間のこともあれば、社会とかのこともある。やはり、人間、個だけで生きているというよりも、色々なものとの関係性の中で良い繋がりがあると、それによりモチベーションに繋がるということを示している。結論としては「人対人」「人対社会」という関係をどのように上手く刺激するか。良い意義を考えてもらうには欠かせないと思います。
アサヒ飲料の「CSV活動」はどのように有効なのか、データと仮説を紹介いたします。今回の研究は2つありましたが、《研究1.アサヒ飲料研究部門でのアンケート調査》を中心に紹介します。
この研究では、研究部門で「CSV活動」に参加された方、参加していない方を対象としたアンケート調査を実施。100名位に協力いただき、回収率100%近く得られました。結構良い結果が出て、社内にフィードバックや報告会を行ったときに、「研究開発部門だから真面目な人が多いので結果が出るのでは」という話もあったので、別の工場の「CSV活動」にも広げました。これが2つめの研究です。ただ、全てを紹介すると長くなるので、今日は特に研究開発の調査結果を紹介させていただきます。
まず初めに、松本様が仰っていたような変化を、多くの人が本当に感じていたのかを確認しました。主観的にどのような変化を感じたかを全体に聞いた結果になっています。
総じて、活動への参加を通じて7割前後の方々が、ご自身の意識や行動に様々な良い変化を感じていました。特に《「ⅱ営業・研究者等の自分の職業で役割を意識する程度」》では、7-8割ほどの方がポジティブな変化を感じていました。先程の研究所の事例で、中学生や高校生が熱意を持ち活動に取り組んでいる様子をもとに、「そうか自分も、このように研究を楽しんでいた頃があった」と感じるようなこともあったようです。それにより「自分はこういうことがしたかった」ということを思い出す機会になったようです。
また、《「ⅰ自分の仕事の社会的意義を感じる程度」》《「ⅲ【アサヒ飲料】の社員であることを誇りに思う程度」》も6-7割の方がプラスの変化があったと回答したり、それをきっかけに《「ⅳ仕事で自分から何かに挑戦したり、自発的に取り組む程度」》も6割位がポジティブな変化に感じていました。
ただし、この結果だけでは「本人が変わったと言っているだけではないか」という解釈もあり得ます。そこで《結果2.活動参加数と諸指標の相関》では、参加者同士100人位の中で相対比較をしました。まず、アサヒ飲料では「CSV活動」として様々な種類の活動を展開していたので、そのうち何個に参加した経験があるのかを集計しました。そのうえで、色々な活動に参加した方、つまりCSV活動に接する機会が多かった方ほど、エンゲージメントなどの得点が高かったりするのかを相対比較しました。仕事に対するエンゲージメント、つまり仕事に対してやりがいを見出しているのか、熱意を持って取り組めているのかの程度であったり、「仕事の社会的意義」「主体的に提案する頻度」等、全体的に右肩上がりの関係です。つまり、CSV活動に多く参加した人ほど、こうした特徴も強くなりやすかったと言えます。
因果関係までは特定できず、「元々、仕事に対するエンゲージメントの高い方」がこのような活動に参加されている面もあるし、活動に参加するほど、「仕事の意義を見出し」、エンゲージメントが高まる面もある。ただ、おそらくは双方向的なのかと思う。
そして、分析をもう少し深めて、「CSV活動」に参加することが「なぜ」、ワークエンゲージメント、つまり、仕事に対するやりがい等を高めるのかを、質問や得点を組み合わせて、段階的な因果関係を分析する統計分析で明らかにすることを試みました。分析では、図の中のそれぞれの四角《「CSV活動参加数」「仕事の社会的意義」「会社の社会的意義」「ワーク・エンゲージメント」》の相関関係を矢印で示しています。分析結果から見えてきたものが、CSV活動に多く参加するほど、「自分の仕事とか会社は何のためにあるのか」「こういうことの役に立っているのではないか」という実感に繋がり、結果「仕事に対する熱意」が上がる。「CSV活動」がエンゲージメント向上に繋がる鍵になる要因が、冒頭紹介した「誰かのため、何かのため」だったという結果を示しています。
この結果でも因果関係までは厳密には特定できていません。しかし、「向社会的モチベーション」「自己決定理論」とかなりフィットするような結果になっているともいえます。主観的に「意識や行動に良い変化があった」という回答も多かったことを踏まえると、①実態は双方向的であるが、②CSV活動が仕事の意義の実感を促してエンゲージメント向上につながったという因果関係もたしかにあるのではないかと思います。
最後に、もう一つ結果をご紹介します。これからご紹介する結果は、CSVのような活動を運営なさっている方々に特にお役立ていただけるかもしれません。何かというと、調査を設計する時に松本様と、「具体的に活動のどのような側面がプラスだったのか」、「どのような活動に参加している人ほどエンゲージメントが上がり易いのか」等、細かな特徴についても尋ねた方が横展開し易い、とご相談いただきました。質問の中でもそういった活動を聞いています。自分が過去に参加したことのある活動で、「社会貢献を感じ易かったのか」「参加者と接する機会が多かったのか」「裏方だったのか」等の質問で、どのような特徴のある活動に参加した人ほど、エンゲージメントが高い等、細かく特徴毎に分析しました。
結果、見えてきたものは「CSV活動」でアサヒ飲料が重視したポイントは3つでした。①「社会貢献を感じられる」方が色々なポジティブなインパクトが多かったほか、②「参加者の方と関わる」ことによって、例えばインタビューでの声で『アサヒ飲料の商品が浸透していて嬉しかった』、『「カルピス」は知っているが社名は皆知らなかった』等の「色々な現場からフィードバックを得られる」という消費者と接することがプラスに働いていました。あとは、③自分から「能動的に参加をする」、「色々な社員同士が交流できる」もプラスに働き易い特徴となっていた、その意味でアサヒ飲料が重視したことがたしかに有効だったことが実際にデータでも相関関係を確認できます。
但し、元々の仮説から少し外れていたものが、「本業との関係」です。アサヒ飲料の「CSV活動」は本業を通じて、経済的な利益にも、社会的にも貢献することが重要。だからこそ、本業との関係が密接な活動であることも大事なのでは、という仮説が当初あったのですが、詳しく分析してみると成果指標との関係が弱かった。「では、本業と関係していなくても良いのではないか?」となるのですが、ここには少し罠がありました。詳しい分析結果を見てみます。分析の結果、単に「本業との関係が強い、弱い」だけを見るのではなく、「社会貢献を感じられる活動だったか、感じられない活動だったか」と組み合わせると、おもしろいことがわかりました。この2つの質問への回答を組み合わせて、回答者を4パターンにグループ分けして、「本業との関係が強い」かつ「社会貢献を感じられる」が両立された場合に特に、組織愛着の得点などが高くなり、「自分たちが社会に貢献できている」と感じられていました。元々、「CSV」は「本業」と「社会貢献」の二つの組み合わせで成り立つ考え方です。だからこそ、単に本業と繋がりが深いことに意義があるのであれば、本業を頑張れば良く、CSVである必要は無い。そうではなくて、この二つを押さえることが重要ではないかという、「CSV」の本質をついた結果ともいえます。
最後に、研究成果を誰が、どのような応用や活用ができそうかということを、まとめとしてお話しします。これまでの内容は、「CSR」「CSV」を管轄されている部門の方にはもちろん役立ちますが、それだけでなく、人事部門が所管するような、人材育成や組織開発の分野でも役に立つと思います。研究成果の考察を簡単にまとめました。
①「CSV」はエンゲージメント向上や社会的意義の実感につながり、もっとこういうもののために頑張ろうというモチベーション等を引き出す可能性が見えました。その意味で、人材育成や組織開発で人事組織の打ち手にも繋がってくるのが一つ目の結論です。
元々「CSV」「CSR」は経営戦略やマーケティング分野で使われやすい考え方や打ち手ですが、人材や組織等のキーワードにも繋がります。だからこそ、②会社としてこのような経営を目指していくんだという経営戦略に関する考え方と、実際の人材育成や組織開発を繋ぐようなポイントにもなると考えています。
これは、先ほどの話とも重なりますが、③従業員エンゲージメント向上の具体的な手段となりうるのではないかと考えています。エンゲージメントを測り、公開しなければ、という情勢にはなってきていますが、一方でそれにどのようにアプローチして、どうやって高めていくのかの具体的な手段がまだ曖昧という理解です。そうした手段を開発し、考える上で、社会のため、人のため、自分がやっている仕事や会社が何のためにあるのだろうかということに気付くことが、現状打破のきっかけやポイントになるのではないかと考えています。
加えて、個人的な気付きや感想も紹介します。今回の結果を踏まえ、気付いた点は主に3つです。
まず、①仕事の「意義」と「意味」は大事というのが、非常に素朴な感想です。人間は感情で動く部分も多いので、「役に立つような誰かのためになる仕事ができる」というのがモチベーションに繋がり易い。逆に、「誰のためになっているのだろうか」というのを日常業務の中では失いがちになってしまう面もあるのかということを学びました。
次に、②アサヒ飲料の取り組みで実感したこととして、「手上げ式」の効果は強く、「自発性は大事」ということを改めて感じました。その分、運営のご苦労が非常に多いのですが、「強制にしない」「色々な選択肢の数を増やし、そこから何かを選ぶ」等が成功の鍵というのが、二点目のポイントです。
そして③他の研究も行っているからこそ気付いた点ですが、今回のお話しは『「CSV」以外の観点で使える』と思っています。私がほかに取り組んでいる研究テーマでもある「感謝と称賛」も「誰かの役に立つ」という実感が人づくり・組織づくりに重要だという点で共通しています。加えて、DE&I(ダイバーシティ推進)の研究もしていますが、やはり「自分で自発的に何かの活動に参加して、自分で組織を変えていく」といったボトムアップの仕組みを作る等が有効といわれています。エッセンスは共通する部分があり、「自己決定理論」や「向社会的モチベーション」のように人の根本的な心理やモチベーションの仕組みが色々なところに通じているところも改めて気が付きました。
まとめです。今回の研究結果からの提案として、組織の未来のための「感情と心理」との向き合い方のメッセージを伝えます。これまでアサヒ飲料「CSV活動」の共同研究の結果から、人材育成や組織づくり、データ等ご紹介させていただきました。今日の重要なポイントは3つになります。①この会社で、この仕事をすることに何の意味があるのか。逆に意義をしっかり自分で内省する機会をつくるのはエンゲージメント向上の鍵になる。②その中の手段の一つとして、「CSV活動」以外の手段で実現するのもあると思いますが、手段の一つとして「CSV活動」が役に立つといった結果。③エンゲージメント向上は人事の施策として捉えずに他部門の「CSR」「CSV」等、他のものと接続することにより、更に色々な道が開けてくることもあります。まとめるとシンプルに「誰かの役に立てて嬉しい」とか、感情や心理の働きかけを上手く実装していくことが組織であり、人であり、変えていく手掛かりになるというのを改めて気付かせていただいたと思います。私からのお話は以上になります。
この後、ディスカッションのパートやQ&Aのパート等で、是非「当社はこのようなことをやっている」等の事例や共同研究にご協力いただける方も募集中です。以上になります。ありがとうございました。
【PART3】 パネルディスカッション
[パネリスト]
アサヒ飲料株式会社 秘書室室長 松本 加奈子 氏
東京女子大学 准教授 正木 郁太郎 氏
松本氏
「正木先生の研究結果を踏まえ、気付いたことや想いを伝えます。研究で深堀りしていただき、当初の仮説は正しかったと思っています。「目に見えない大きなパワーを持つもの」を可視化することができた。社会と触れ合うことが働き方を変えていくための大きなきっかけになるという確信を改めて強めることができました。ポイントは3点あります。正木先生の話にありました、①「仕事や自分の興味、自社の強みの発見」することが凄く大きなパワーを持つことを改めて感じました。②「自発性」手上げ制にはかなりこだわりました。事務局としては大変で、はじめから指名してしまった方が楽なのですが、そこに時間を掛けるだけの価値があったと思っています。③フィードバックや同僚の話がありましたが、自分で気付くだけでなく、誰かから言われることを掛け合わせることが凄く効果的だと実感しました。学生に言われて「自分が思っていたよりも自社が凄かった」とか「これは普通ではないと気付いた」とか、「先輩にいいねと言ってもらえたこと」等の伝播は、凄く強いと感じた次第です。この活動・研究を他の活動にも是非使っていきたいと思っています。既出ですが《①社会貢献の実感、②フィードバックの機会の多さ、③主体的な参加、④社員同士の交流、⑤本業や自分のスキルの関係性》の5点がエンゲージメントに効いていたポイントになります。やりっぱなしにしない。自分がやったことはどのように社会に繋がっているかを実感する機会を作るとか、交流等、できるだけ自分の本業に繋がるような活動をさせた方が効果になっていることに気付きましたので、是非、本日ご参加の皆様にも活用していただけたら嬉しく思います。」
正木氏
「この後のディスカッションとQ&Aに関するお願いになります。これまでアサヒ飲料の「CSV活動」を紹介しましたが、本日ご参加になられている皆様の中で、似たような活動を行っている会社もあるかと思っています。「CSR」「CSV」でも、それに関わらず「仕事の意義」を考えるきっかけになる、近いかどうか分からないがこのようなことがある等、Q&Aやチャット等で自由に聞いて大丈夫です。松本様にお伺いしてみたいことを3点用意しています。①先程、既にご質問としていただいていること《Q&A:CSRからCSVへ変化するにあたり、どのような思いをもったのか?》に関わると思いますが、「CSR」から「CSV」への変化にあたり、色々な社員の方々がどのような想いを持っているか、ポジティブ・ネガティブ、色々なことがあったのではとの趣旨の質問と思います。①の《(活動運営について)社内で関係者に価値を訴求するうえで、どのようなご苦労があり、どのような「コツ」があったか?》について、社内で関係者に価値を訴求したり、「CSV」が大事だと訴えていく上での苦労や社内での活動、価値、あるいは「CSV」の考え方を浸透させていく「コツ」等の具体的なことを伺えればと思います。」
松本氏
「Q&Aを先にお答えいたします。「CSR」から「CSV」へ変化するにあたり、社員がどのような思いだったのかということですが、「CSV」という方針が出たのは2018年のビジョンを設定した年で、「CSV」について、社員は最初、腑に落ちなかったと思います。私も最初はどうしてよいか分からなかった。時間を掛けてトップとコミュニケーションで理念も浸透させて、徐々に「CSV」が腹落ちしてきて、実践の糸口を少しずつ掴みつつあるのが実態と思います。「社会価値」と「経済価値」の両立は言うのは簡単ですが、とても難しいので、どこから取り掛かってよいのか分からない。今でもそう思っている社員が多いと思います。ただ、マテリアリティの『健康』『環境』『地域共創』は少なくとも社員の中に合言葉として浸透していますし、『100年のワクワクと笑顔を。』作っていこうという想いも長年掛けて社員のものになっているので、きっかけがあれば社員が動けるような理念の浸透が図られているのが現在地と思います。パネルディスカッションの①にいただいた《社内に価値を訴求する》ですが、最初は「このようなことをやりたい」とか「これに価値がある」と言ったとき「そうだね」と言ってくれた人はいると思いますが、それに調査までする価値があると思ってくれた人は多くないと思います。やったこととして、上層部を上手く巻き込むために、価値を何度もプレゼンしました。その時に当時新聞に載っていた「人的資本経営」等のバズワードを意図的に織り交ぜて、「こういうことを研究開発からやったらどうでしょうか」というプレゼンテーションを行ったのが一つ目の工夫です。二つ目の工夫はエモーショナルに伝えると凄いパワーがあるので、このような「サイエンスキャッスル」の学生と触れ合う場にできるだけキーマンを巻き込み、学生さんと触れ合い、嬉しい気持ちを味わっていただくというのも、細かい工夫としてやっていました。」
正木氏
「今、松本様の話に触発されたことは、私は研究という立場で関わり、報告会を行ったことが非常に重要なポイントと思います。「CSV活動」は何か価値があるらしいという話だと、理解されないことが多いのですが、調査して数字になると、例えば研究開発の人だからこうなった、この活動はこのようなことをやっているから、このような結果になったのではないか、もっとこうしてみたらよいのではないかということが具体的に数字にして伝えてみる、話してみることにより、次のアイディアが出てくる。そういう面も大きいのかと思っています。今回も1回の調査で全部完璧なものを導くことは不可能だと思っていたので、1回の調査でできるレベルに納めていたものの、報告会の議論を通じて、研究開発だからという声に対して、他の調査もしましょうと話したり、同じデータを土台にしながら、議論して仲間づくりをするようなこと。研究結果の使い方という面です。」
松本氏
「報告会は思った以上に盛り上がりました。研究所はグループリーダー以上が全員出席してくれたのですが、質問を色々といただき、「内省を促すのはどうしたらよいのか」等の質問が出たり、リーダーたちも気になっていたポイントであり、糸口を探していた時に報告会ができたと思いました。」
正木氏
「二つ目。②の《「アサヒ飲料だからこそできた」点と、他の企業でも通じそうな点がありそうか?》は先程、「工夫として」「コツ」として色々とご紹介いただいたお話と繋がってきますが、その中で【アサヒ飲料】だからこそできたということ。他の会社でもこのようなことであれば通じそうかということをお伺いします。」
松本氏
「やはり理念やマテリアリティが浸透していたというのが大きいと思います。『環境』『健康』『地域共創』に引っかかれば、自分の中で「財務価値」や「社会価値」をどのようにしたらいいのか自動的に考え始めるような社員の思考回路ができていたので、凄く良かった。理念の浸透が秘訣です。二つ目はラインナップが多いことが強みです。「社会に関わる活動」で且つ、社員に結構参加できるものが多い。社風もあるのかもしれないですが、例えば七夕の日に「カルピス」の販売応援を社員の皆が全国のスーパー立つこと等、社員が参加して行うこと等、色々なイベントも手上げ制で、他の部門から人を集めるということは結構日常的に行われているので、やる気のある人はエントリーができる。その自発性を発揮する機会があるのが【アサヒ飲料】の特徴です。」
正木氏
「理念として浸透という話が、私は違う観点でも重要だと思いました。社会心理学の研究でよく登場する考え方として、人間はどうしても「なぜ」という理由を凄く気にする生き物だ、ということがあります。例えば、私が学生に対して何かを話しかけて、学生の反応がいまひとつだったとします。そうなると、私はつい「一体、何が難しかったのか」と反省し始めてしまいます。しかし実際は、学生は「前日夜が遅かったので、ただ眠いだけ」「お腹が空いているだけ」等、大した理由がないことが殆どだと思います。ただ、どうしても「何のために」とか「なぜだろう」と、理由を気にしてしまうのが人間の心理です。
この内容を踏まえて、今回の「CSV活動」の話に戻ります。CSV活動でも、全く理念で取り上げていなかったり、それらとの一貫性を考えていなかったりすると、社員の立場からすると「なぜ、いきなりこのようなことをやり始めたのか」「なぜ、このようなことをやらないといけないのか」等、頭に「?:ハテナ」が浮かんで、その意味を上手く推測できず、参加の意欲も湧かないというのも多いのかと。
一方で【アサヒ飲料】の場合、それが実際どれだけ理念として浸透しているか、実際に徹底できているか、少なくとも理念としてこれを掲げていく。理念に紐づいている、マテリアリティに関わっていくというのが、前向きな意味で使える。「経営層もそう言っているから」「大事らしいから」というので、ずれずにまっすぐに解釈するから参加のモチベーションに繋がりやすいし、効果もはっきりと出易い。やはり【アサヒ飲料】だからできたというのもある。逆に言うと、そのポイントを守れば、他の会社でも、自社のこれを目指して、こういうことをやっていると、上手く一貫性をとっていけば、他の会社でも適用はしやすいと考えます。
最後に、今回の話で改めて特徴だと思っていたのが、研究開発の部門が主体でボトムアップで活動が実現されていた点です。なぜ注目したかというと、一般的にエンゲージメント向上の手段では1on1ミーティングや福利厚生の運営等、比較的人事が管轄する施策とオフィス環境等の総務が管轄することが多いと思います。今回は全く関係のない、人事の方から聞くキーワードではない「CSV」と「社会貢献」等が上がってきたというのか、結構そこに注目するのも、改めて考えてみるのも不思議なこともあるというか、特徴的だと感じたこともあり、松本様として、研究開発部門主体だからこそ、というところもあるのかとか、逆に人事の方だからこそこういうことができるのではないかという提案や、そのあたりの気付きとかがあれば、教えていただけると嬉しいです。」
松本氏
「ボトムアップだからこそ良かったことと、やはり力不足だったところがあると思っています。ボトムアップだったから良かったことは、生々しい社員の熱量を拾えたというのが絶対です。彼ら彼女らが起こした心理的変化は事務局として隣で時々見ていたから気付いたのですが、もう一階層上の人であれば、アンケートの結果を見る位で、気付かなかったということもあり、発見できたことは強みで、上手く活かせた。もう一つは小さく動けたことが凄く良かったと思います。人事部だったらできなかったと思う。人事総務部に来て感じることで人事は全体を見ている。会社全体をどうするかがミッションで、これを全社的にやろうと思うと「あの部門では」「こちらではこういうことが起こっていて」「全体を考えるとこうで」と考え始めたらできなかった。部門で起こっていることを発見し、その部門のケースとして先ずはやってみるという、スモールスタートができたというのが本当に良かったと思います。それがなかったら、彼、彼女たちが起こしている変化も会社として広く知られることなく、予算がとれずに終わっていたかもしれない。それを研究という形で残せ、人の目に触れるような形にできたのは良かったと思います。一方で限界もあり、インパクトとして弱かったと思っていて、今、人事総務部という部門に来ることができて、そういったことをやりたいと思うのですが、全社の部門としてやるのは凄くパワーがいることとキャパシティが必要だということがあるので、多分研究開発でやっていることをもっとスケールできるように提示しないと広がらないというのは、当時やりきれなかったところで少し悔いが残るところです。今日聞いていらっしゃる方は人事の方が多いのかも知れないですけれども、人事の方から見えるところもたくさんあると思いますが、実はそのようなことを現場で考えている社員とか、もう気付いていてもっと会社に使えるといいなと思っている社員とか凄くたくさんいると思うので、そういうのも拾っていただけたら凄く良いのではないかと勝手ながら思います。」
正木氏
「その上でもう一つお伺いしてみたかったのが、全社としてやるにはスケールできるようにするには何か足らないというので、突破口になりそうなことを教えてください。」
松本氏
「難しいですね。きれいな答えを見つけられていないのは事実です。もっと分かり易く、使い易くする必要があると思っています。論理的に説明できているし、実証もできているのですが、あまり研究まで聞いてくれる人もいません。分かり易いメソッドとして作り、展開できるような形にしないといけない。そのための実例を踏む必要があると感じています。研究所に留まらずに工場部門の活動に転用できないかと売り込んでいて、工場部門でこの成果を活かした動きができれば、周りに広げていきたいと思います。分かり易い成果が出たら、全社活動とか活用できないかと野望は持っています。」
正木氏
「私のような第三者の立場で、こうした観点もいいなと思ったのが、社内からのプレッシャーだけでなく外圧のようなものを活用することです。今回アサヒ飲料の中でこのような活動して、このような結果が出ましたと、今日お聞きになっている方々にもご関心が持てそうなポイントがあれば、では自社ではどうなっているのかというような事例を寄せ集めて、このような「CSV」や「誰か、何かの役に立つ」ということが人材育成とか組織開発の役に立つか、会社同士で色々な知識とか知恵を持ち寄り、それをプレッシャーにしていくというのもありなのか。「他の会社でもこのようなことをしている」「それならば」というロジックで、運営がうまく回る部分も多いと思います。私自身ももっと研究や事例を集めて、みなさまに活用していただける知見をためていくことも大事なのかなと改めて感じました。」
◎フォーラムを終えて
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参加者の意見・感想は・・・
エンゲージメント向上に繋がるひとつの視点として大変参考になりました。 企業での実際の活動と関連する学術研究とを結び付けたセミナー設計に説得力があった。 CSV活動について初めて意識させていただきました。人間心理に働きかける要素があることが実感でき、有意義でした。 CSV活動が社員のエンゲージメントに与える影響について、企業の実践事例だけではなく学術的な解説があることによって、その企業だけの現象だけではなく広く展開できる可能性を感じることができました。 「まずはスモールスタートで始められたのが良かった」という言葉に自社の環境を重ねて、そのような発想や機動力がもたらす効果を想像しました。ぜひ参考にさせていただきます。 弊社でも金融教育のボランティアを行なっていましたが、総じて参加の満足度が高く、エンゲージメントの向上にも寄与しているようです。今回その点を理論的に整理できて良かったです。 CSRからCSVへの転換という方向性は、とても共感しながら拝聴しました。手上げ制にこだわって参加者を募られている点も、納得感がありました。まずは「参加してみる」ことを後押しするような風土づくりや仕掛けがあってもよいのかなと感じました。 -
登壇者の感想は・・・
アサヒ飲料株式会社 秘書室室長 松本 加奈子 氏
「本講演内容に興味を持っていただき、ありがとうございました。小規模な取り組みではありましたが、社員の心に向き合う研究は私自身も多くの可能性を感じる時間でした。皆さまがワクワク働くための何らかの気づきやヒントとなれば幸いです」
東京女子大学 准教授 正木 郁太郎 氏
「この度はご参加ありがとうございました。分かりやすい取り組みでありながら、効果を発揮する様々な工夫があるのがアサヒ飲料様の取り組みの特徴だと考えています。ぜひ、みなさまの会社の人づくり・組織づくりにもエッセンスを取り入れていただけると幸いです。」
