ホームセミナーセミナーレポートダイバーシティ研究会 2021年8月25日開催

セミナーレポート

ダイバーシティ研究会

仕事と介護の両立を支援するための企業の役割

株式会社パソナライフケア 代表取締役社長 髙橋 康之
株式会社JVCケンウッド サステナビリティ推進室 ダイバーシティ推進室 奥田 恭子 氏
株式会社神戸製鋼所 人事労政部 ダイバーシティ推進グループ 担当課長 荻野 朝子 氏
ポーラ化成工業株式会社 人事部キャリア推進室 ダイバーシティ推進担当 矢野 未明 氏
株式会社パソナライフケア シニアマネジャー 継枝 綾子

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高齢者人口の増加とともに、『介護』が働き盛り世代の避けられない問題となり、企業にも仕事と介護の両立を支援する施策や従業員への周知など、さまざまな対応が求められています。
今回のダイバーシティ研究会では、まず、パソナライフケアの取り組みをご紹介した後、実際に仕事と介護を両立されている企業のダイバーシティ担当3名にご登壇頂き、ご自身の体験や自社の取り組み、課題なども踏まえたディスカッションを実施しました。

■PART1: 『遠距離介護者としての自身の介護体験、そしてパソナライフケアの取り組み』
はじめに、パソナライフケアの高橋より、パソナグループにおける「仕事と介護の両立支援」の取り組みを紹介しました。パソナライフケアでは、家族の介護を理由とする離職が増えたことや、2025年に“団塊の世代”が全員75歳以上の後期高齢者になるという状況を背景にスタートした従業員への支援策として、介護に直面する前の予防段階から現在介護でお困りの方まで、トータルでサポートする法人向けの介護離職予防サービスを展開しています。
また、高橋自身の遠距離介護体験も紹介。介護する立場になるのは急であり、両親や義母の状況、高齢者への対応、介護の程度、入居する施設選び、ケアマネジャーがいかに大切であるかなどを説明しつつ、介護は100人いれば100通りあるため、親や家族などさまざまな人とコミュニケーションをとることや、事前の準備が重要であることなどを語りました。

■PART2: トークセッション 「従業員の仕事と介護の両立を支援するため、何が出来るか?」
後半のトークセッションの冒頭では、3社それぞれの担当者より、自社の取り組みの紹介がありました。
JVCケンウッドで育児・介護両立支援や女性活躍推進を担当し、自身も近距離にて両親を介護中の奥田恭子氏からは、同社で2016年より仕事と介護の両立支援の取り組みを開始したこと、育児・介護両立支援ハンドブックの作成や介護アンケートの実施(回答者の8割を占める40〜50代従業員のうち76%は介護当事者)、SDGsフォーラム2020・2021での動画配信の実施などについて説明がありました。

神戸製鋼所の荻野朝子氏は現在、社内コミュニケーションの促進、外国籍社員の活躍や介護との両立支援を担当していますが、海外出張中に母親が脳梗塞で倒れて介護を経験しています。同社では、就業支援制度は1993年より法定内の内容で整備しつつ、介護のための休暇は一部有給扱い、介護休業は最大3年取得可能などの特別な制度も導入しています。各事業所に相談窓口・介護相談員も設置していますが、今後の課題としては介護相談員の知識向上や現在介護中・介護予備軍の正確な状況把握などを挙げました。

ポーラ化成工業で従業員の仕事と介護の両立へのサポートや男女共同参画実現に向けた取り組みを担当する矢野未明氏は、同居している母親の介護中です。自身の経験を踏まえて介護保険制度の仕組みを周知すべく、仕事と介護の両立支援に取り組んでいることを説明。今後はさらなる介護に関する認知向上に向けての研修開催やハンドブックの更新、相談会開催や社内相談室の開設などを目指しています。

続くトークセッションでは、3氏から以下のような、さまざまな意見・コメントを頂きました。
・ハンドブック作成やセミナー実施など、従業員への啓蒙活動を定期的・継続的に実施することで、情報の周知だけではなく、実際に介護が必要となったときにすぐ役立つようになった。
・管理職向けセミナーの実施は、管理職の意識改革だけではなく、介護に直面した社員に対するサポートなど、職場の風土醸成に効果的である。
・介護に関する相談窓口の内製化が、今後は重要なポイントになってくる。
・コロナ禍によるリモートワークの通常化など柔軟な働き方ができるようになったことで、介護に没頭してしまう危険性も増した一方、行政への相談やケアマネジャーとのコミュニケーションに当てる時間が確保できるようになったという良い面もある。

仕事と介護の両立を支援するための企業の役割としては、厚生労働省が推進する5つの取り組みにあるとおり、まずは実態を把握し、社員の知識習得への支援、職場の風土醸成、相談対応、制度などの見直しを繰り返し実施することが重要で、それにプラスして管理職へのセミナーを実施することで、職場でサポートする側/される側双方の理解を促すための風土醸成が大切であるとし、トークセッションを締め括りました。

◎研究会を終えて

  • 研究会の内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    グラフ
  • 参加者の意見・感想は・・・

    高橋さんの体験談を聴いて、弊社社員にも同じような状況の者がいたら、やはり会社として両立支援対策は急務と感じた。今がまさに取り組み時だと思う。トークセッションのパネリストも全員が女性で、従業員への想いが陰に見えながら、各社の取り組みをお聴きできたことも、たいへん貴重だった 自身も介護が急に始まり、心身ともにつらい時期だったので、高橋さんの話を聞き、とても勇気付けられた。セミナーの中で、人事担当として今後社内の相談窓口になりたいと質問したが、教えて頂いた研修や資格にもチャレンジしてみようと思う。まずは、自身の介護体験を社内で広く開示し、実は悩んでいる、これから不安だという社員と気持ちを共有し合えるような場づくりをしてみたい 高橋さんの介護体験の実態を聴いて、介護する方もされる方も、それぞれが意思を持ち、気持ちを持っていることを、あらためて痛感した。それを含め、一律の制度を考え、千差万別の個に向き合うことに、あらためて正解はなく難しい取り組みだと感じた。また介護離職をせずに会社に残った際の自由度や支援内容を企業側で高めつつ、社会としても、離職をしても容易に復帰できるような労働市場を作り上げることも必要なのだと感じた 高橋さんご自身の経験談をお聞きして、涙が出そうになった。ご苦労された経験とともに、要介護を返上された際のお父様からの弾んだ声のお電話などのエピソードも素敵だった。ダイバーシティと言うと、どうしても女性活躍や男性育休の方に注力してしまう傾向にあるが、当社も社員の平均年齢が上がっており、研修や社内イントラでの掲示、ガイドブックの作成に向けて、私自身も学びを進めたいと思うきっかけになった 介護について、どのような観点で取り組んでいったらよいか、他社事例も含め、非常に勉強になった。特に、リモートワークが増えていく中、当事者自身がさらに介護に注力してしまうあまり、疲弊の状況が見えにくくなっていることに、はっと気付かされた。「介護をする」ではなく、「介護をマネジメントする」というキーワードが大切だなと思った 私にとって介護はまだ他人事だったが、みなさんがおっしゃる通り、介護は急に来るという事に気付かされた。その時に自分が何をまずしなければならないのかと考えた時、各社取り組まれているガイドブックがあり、介護についてアドバイスをくれる介護職員がいる事は、とても心強いと思う。当社にもおそらく介護で悩まれている方はいると思うので、ガイドブック作成やセミナーを開くなどして、社員の方にも介護は他人事ではなく急にやってくるもので、その時の為に心構えをしておくことがいかに大事かを意識しておいてもらおうと思った 介護に関しては、定期的・継続的に基礎セミナーを行う事で、介護に直面した方の助けになるものだと思った。また相談窓口を設置する、管理職への理解促進を図るなど、介護しながら働き続けるための相談体制をつくることが大切だと感じた。管理職としては、介護する部下について個人の目標設定の際にそういった状況を踏まえた目標設定を行う事で、評価へのマイナス影響が出ないような配慮や調整なども行う必要があると思った とても勉強になった。どこまで当社の施策に落とし込めるか分からないが、そこまでやらないと浸透しないんだな、ということが分かった一方、基礎編を繰り返すだけでも意味があるんだなと心強く思った。毎回異なることを…と思っていただけに、少し心が軽くなった 人事担当者として行うべき取り組みをわかりやすく整理し伝えて頂いたので、自社での計画化に活かしたい。また、自身に介護経験がないため、勉強手段も知ることが出来、参考になった 母と生活を共にしていることから、「介護は突然やってくる」という現実を、もう少し積極的に捉えたいと思った。心の準備、環境の準備、またその時の自身の仕事との向き合い方を考える良いきっかけとなった
  • 登壇者の感想は・・・

    株式会社パソナライフケア 髙橋 康之

    株式会社パソナライフケア 髙橋 康之

    「働き方の多様性が求められる中、『仕事と介護』や『仕事と家庭』の両立に対する企業の支援は、これから益々重要性が増すものだと思います。この課題に対するパネリスト各社様の真摯な取り組みは、たいへん参考になるものでした。ウィルス対策等、他の課題も山積する時期ですが、大切な従業員のためにこれからも努力してまいりたく存じます。誠にありがとうございました」
    株式会社JVCケンウッド  奥田 恭子氏

    株式会社JVCケンウッド 奥田 恭子 氏

    「会社としては色々な方法で制度を周知することに加え、介護にはプロの力を借り、従業員自身はマネジメント役をしながら、仕事を続けることが大切であるというメッセージも、とても重要だと思います。また介護だけでなく、働き方に制約のある社員の支援については、職場で話題にできる、そして休みやすい風土の醸成と、会社の姿勢を発信し続けていくことが大切だと、改めて感じました」
    株式会社神戸製鋼所    荻野 朝子氏

    株式会社神戸製鋼所 荻野 朝子 氏

    「神戸製鋼所は介護休業、介護に伴う休暇等の制度は整えているものの、介護の施策についてはまだ始めたばかりで、今後は①実態把握、②介護に関する社内制度含めた情報提供、③相談窓口の相談員の知識向上、④介護と仕事を両立させるために柔軟な働き方の支援を行いたいと考えています。今回のトークセッションで、気づきのきっかけを頂き、感謝致します」
    ポーラ化成工業株式会社  矢野 未明氏

    ポーラ化成工業株式会社 矢野 未明 氏

    「弊社の取り組み事例が皆様のお役に立てるのか心配でしたが、当日は多くの皆様にご視聴頂き、仕事と介護の両立支援を課題と捉え、関心を持ってくださっている方が多いことを実感しました。従業員が介護両立に一人で悩み、共倒れにならないよう、今回紹介された他社様の取り組みも参考にさせて頂きながら、引き続き取り組んでまいります」
    株式会社パソナライフケア 継枝 綾子

    株式会社パソナライフケア 継枝 綾子

    「2025年には団塊世代が全員75歳になる“大介護時代”が到来します。企業の中核となる団塊ジュニア世代が、介護の心構えや事前の準備を怠っていると、突然親の介護に直面し、共倒れや介護離職に陥るリスクは否めません。会社が従業員にできる支援は限られていますが、介護は早期発見/早期対策により、大難を中難や小難に回避させることが可能です。諦めずに5つの取り組み(実態把握、制度設計、直面前の支援、直面後の支援、働き方見直し)を継続実施することが重要だと思います。今後も、皆様の仕事と介護の両立支援を応援いたします」