ホームセミナーセミナーレポートオンライン公開講座 2022年02月17日

セミナーレポート

オンライン公開講座

エンゲージメントとジョブ・クラフティングの視点から考えるキャリア論

ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 教授   川上 真史氏

このセミナーの案内を見る

人生100年時代と言われる今日、企業にとってはミドル・シニア層が、高いエンゲージメントを維持したまま活躍できる風土の醸成が急務となっています。そうした中、将来に漠然とした不安を抱えたり、自分のキャリアに自信が持てないミドル・シニア層が、仕事のやりがいや満足感を高めるための取り組みのひとつとして“ジョブ・クラフティング”が注目されています。

当協会の今年の重点テーマである「ミドル・シニアのキャリア自律」についての第1回勉強会は、ビジネス・ブレークスルー大学の川上真史教授をお招きし、「エンゲージメント」と「ジョブ・クラフティング」という視点から、ミドル・シニア個人と企業人事が何をすべきかを伺いました。

セミナーの冒頭、本年2月に日本CHO協会が実施した「ミドル・シニアのキャリア自律」に関するアンケート調査結果の概況を報告しました。アンケート結果からは、社員の平均年齢が40歳代前後という企業が約半数を占める現状と、雇用年齢の上限引き上げやシニア社員の活用・活性化という課題への取り組みが、多くの企業にとって急務となっていることがわかります。

これを受けて川上氏は「人材マネジメント論の変化」から講演をスタートしました。人材マネジメントは「組織が決めた方向性・プロセスを確実に回すための資源(HR/人的資源)」と考える時代から、「組織にとっての投資対象(HC/人的資本)」と考える時代を経て、現在は「組織にとって探求すべき対象(TM/タレントマネジメント)」へと変化。現在は、人材を企業が理想とするモデルに合わせるのではなく、一人ひとりのタレントを見極めた上で活用することが必要だと解説されました。その上で、シニア社員活性化の前提となるのは、個々人を無意識の抑圧から解放する「エンパワーメント」と、相手を勇気づけ、行動を引き出す「エンカレッジメント」の2点です。そしてシニアのキャリアを考える上でのキーワードは「エンゲージメント」「アンラーニング」「人格」の3つです。

まず「エンゲージメント」とは、単に「仕事が楽しい」「会社や仕事、職場環境、報酬などに満足している」状態ではありません。その仕事に興味関心を持ってのめり込み、仕事に意味・意義を感じ、フロー状態(チャレンジとスキルが高い状態で融合した状態)となることが、最終ゴールです。「楽しい」「気合・根性」「満足感」は“誰かから与えられるもの”に対する感情ですが、「興味・関心」「意味・意義」「幸福感」は“自分で創り上げているもの”に対する感情です。
ここで一旦、小グループに分かれてディスカッションを実施。自社における社員のエンゲージメントの度合い、エンゲージメントさせるために行っている施策などについて、情報交換を行いました。

シニア社員におけるエンゲージメントの課題として、「何にエンゲージするかの個人差が大きくなる」「職務の選択肢が狭まる」「本人のモチベーションが低いケースが多い」などが挙げられます。
そこで重要になるのが「ジョブ・クラフティング」、つまり仕事の中に自分で創り上げたものを組み込み、それほど興味が高くなかった職務でもエンゲージ度を向上させることです。ジョブ・クラフティングで創り上げるポイントは「仕事のプロセス、進め方、手法など」「新たな関係、ネットワークなど」「チャレンジ・ポイント」「仕事の意味・意義」の4つです。留意点として、全てを作り変えようと考える必要はないが、「自分で創り上げた」という実感は重要です。但し、「この部分のジョブ・クラフティングは不可」というポイントを明確にすることも必要です。

2つ目の「アンラーニング」とは、「これまで学習した知識や、構築した理論体系を意識的に棄却すること」です。知識量の多さが、「知っている」が故の創造性の阻害に繋がることも往々にしてあるため、意識的にアンラーニングを行うことが重要で、対象となるのは以下の3つです。
①誤学習: 間違った知識・情報として学習してしまったものがないかを振り返り、正しいものに修正すること。
②未学習: まだ習得できていない、分かっていない知識・情報がないかを振り返り、その点について学習すること。
③古学習: 既に使えなくなっている、変化してしまっている知識・情報を最新のものにバージョンアップさせること。
求められるものが「気合・根性」から「エンゲージメント」へと変化したように、仕事に関する知識はさまざまな点で変化し、かつての常識が通用しなくなっていることを自覚することが重要です。川上氏は「ABC理論」を引用し、実際に起こった出来事(Activating Event)と、結果として生み出される感情・行動(Consequence)の間に、非論理的な信念・思い込み(Belief)が挟み込まれてしまうことの弊害を解説。長い経験と高い専門性・知識を持つシニアだからこそ、アンラーニングが必要であるとしました。

ここで再び、小グループに分かれてディスカッションを実施。参加者自身がアンラーニングした方がよいと思われるポイントや、シニア社員にアンラーニングしてもらいたいポイントなどについて、意見交換を行いました。

3つ目は、他者との関係を深める「人格」についてです。常にネガティブな感情や言動を発する、他者の意志・権威で行動する、同質へのこだわり。こうしたパーソナリティを持つシニアはどんどん孤立してしまいます。反対に、常にポジティブな感情・言動を発し、自分の意思・判断で行動し、異質性の受容があるパーソナリティは、他者との関係を深めることができます。そのパーソナリティ傾向が出るときに、ポジティブで前向きな感情が伴う人は「安定」、ネガティブな感情や極度なこだわりを伴う人は「不安定」と考えられます。安定したパーソナリティの条件は、以下の4つです。
①主体性: 自分の行動や考えの主語がすべて「私」になっているか
②単一性: ネガティブな部分も含め、自分のすべてに目を向けているか
③連続性: 自分の考えや行動に、すべて理由があるか
④自他の区別: 自分と他者を混同することなく、その違いを認識しているか
但し、パーソナリティは「変容」するのではなく「追加」するものです。「会社と家庭では別人格」と言われるように、多くの人は7〜8つの人格を持つと考えられます。最初は演技でよいので、TPOに応じた新たなパーソナリティを付け加えていくことが、現実的と言えるでしょう。

川上氏は最後に、シニア活性化施策のポイントを4つ挙げました。
①エンゲージメント(特にジョブ・クラフティング)、アンラーニング、人格の追加
②可能な限り、コーチング、1on1など個別のアプローチを組み込む
③「理想的なシニア社員モデル」を持ち込まない
④「シニア」というひとくくりで、全社員をまとめない

参加者の皆様からは、活発に質問やコメントが寄せられ、川上氏からひとつひとつ丁寧に回答。3時間に及ぶセミナーは充実したものとなりました。

◎公開講座を終えて

  • 公開講座の内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    グラフ
  • 参加者の意見・感想は・・・

    働き方が多様化する中で、年代別に研修やキャリア支援を考えることについて、より考えを明確にしたいと思い参加した。シニアのストレスの高さについて示して頂いたことは大変興味深く、その中でジョブ・クラフティングの考え方は利用できるものだと感じた。アンラーニングや抑制を廃していくことは、年代に限らず重要だが、特にミドル・シニア以降は重要になっていくのだと改めて勉強になった 大変参考になった。人事もアンラーニングしなくてはと痛感したし、バイアスにとらわれることなく、今後施策の検討と実行を進めていくにあたり、背中を押してもらったような気持ちになった 川上教授のレクチャーから、会社と社員の関係変化を踏まえ、組織側と個人側の双方の視点に立脚した人事戦略が必要であると認識した。また、ブレークアウトセッションでは形式的操作等に関する先取りの議論ができた。本日のテーマの実践編として、今後また先行事例等の紹介をお願いしたい 人財マネジメントにはトレンドがあり、常に変化しているが、長く勤めあげたシニア社員は、そのトレンドによって、ある時は熱血根性社員に、ある時は成果主義の波に揉まれながら組織人としての貢献を求められ、そして今は、個々のタレントをどう活かすかという流れの中にいる。自分軸を持つことの大切さを強く感じた 自分自身も含め、シニアを元気付けるための方法を、エンゲージメントとジョブグラフティングの観点から簡潔に解説して頂き、今後の施策構築にあたっての大きなヒントになった 自分自身の問題として考える大変良い機会となったし、一方で人事担当部門としても、今日の情報を人事政策に組み込みたいと思うが、どうすれば有効に活用できるか、自分の課題となった 今回の参加は、業務上の観点もさることながら、自分自身の(今後の)立場も考えてという所が偽らざる動機だったが、非常に参考になる有意義な内容だった。また、ブレークアウトセッションでの他企業の方との議論は、こうしたセミナーでは非常に新鮮で、最後まで緊張感を持って聴講できた セミナーの内容と進行がとてもわかりやすく、課題イメージが腹落ちし収穫になった。全てを取り入れるという考えではないと言われたように、これを全網羅するのはやはり難しいし、企業毎の現在の組織状態による所が大きく、ひとつの考え方として念頭に置きながら、徐々に自社の制度に組み込んでいくイメージで考えたい ジョブ・クラフティングもそうだが、企業はシニアを一律に取り扱ったり、困った存在と見るのではなく、個性を活かして活躍してもらえる人材として考えていくことが大切だと、改めて理解した 現在のシニア層は、入社時には定年が55歳であったことや、自分自身を抑圧し業務に遠慮する場合がある、という視点、そしてアンラーニング等、新たな視点をたくさん得ることができた。エンゲージメントの定義も、自分自身は誤解していたので大変勉強になった。各個人が自分でジョブ・クラフティングできるよう、アシストすることをめざすのであれば、私自身が誤解していたエンゲージメントを目指すよりも、提供側にも心的負担が少なく、成功しやすいのではないかと思う シニアの活性化のために有効な施策がジョブ・クラフティングということは、これまで全く聞いたことがなく、とても新鮮だった。早速キャリア研修で取り上げてみたい。また、アンラーニングについても弊社シニアの実態を鑑みると、大変重要なテーマであることに気付いたので、このテーマ単独でのセミナーも企画してみたいと思った 管理職が旧い考えで組織が活性化しないため、どうしたら良いか悩んでいるので、今後アンラーニングについてじっくり学びたい
  • 登壇者の感想は・・・

    ビジネス・ブレークスルー大学  川上 真史氏

    ビジネス・ブレークスルー大学  川上 真史氏

    「ミドル・シニア社員が活躍し続ける体制を構築していくことは、たいへん重要な課題であることが、ご参加された方々の雰囲気から強く伝わってきました。また、この点についての調査研究が、心理学において足りないことも痛感致しました。今後もさらに研究を続け、ジョブ・クラフティングに加え、さらに効果的な施策を検討したいと思います」