ホームセミナーセミナーレポート人事戦略フォーラム 2023年6月21日

セミナーレポート

人事戦略フォーラム

社員から選ばれる組織になるために ~社員体験を充実させる4つのエンゲージメント~

組織人事コンサルタント 加藤 守和 氏

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ビジネスパーソンの働き方や価値観が多様化し、働く主導権が会社から社員に移りつつある中、社員から選ばれる魅力的な企業であることは、企業生き残りのための重要なファクターです。今回の人事戦略フォーラムは、組織・人事コンサルタントとして、数多くの企業を支援され、近著『ウェルビーイング・マネジメント』(日経BP)を上梓された加藤守和氏をお迎えし、社員に選ばれる組織になるための処方箋を、社員体験を充実させる4つの重要なエンゲージメントの視点からお話していただきました。以下は講演の要旨です。

1.会社と従業員を取り巻く3つの大きな環境変化

大前提として、会社と従業員を取り巻く環境が大きく変わりつつあることを理解していただく必要があります。会社と従業員の関係性がどうあるべきかを理解するために、双方が現在どのような環境変化の中にいて、会社自体をどのように捉え直さなければいけないのかについて、まずは考えていきたいと思います。

① 少子高齢化と人材競争獲得の激化

日本の少子高齢化は年々進み、生産人口の減少は確実に訪れています。特にデジタル領域を中心に人材不足は深刻であり、世界各国では国家戦略として人材誘致を行っています。例えば、欧州各国ではノマドビザを発給し、エストニアではデジタル空間で居住権を与えることにより、非居住者でも行政サービスを受けることが出来るように環境整備をしています。このように、限られた人的資源はグローバルレベルで既に奪い合いになっているのです。

② 柔軟な働き方の急速な拡がり

コロナ禍をきっかけとしたテレワークの普及により、働き方に物理的・時間的制約がなくなりました。働き方もオフィスかテレワークかの二者択一ではなく、時間単位でテレワークを組み合わせ、家事や趣味と両立することが出来る等、個々人のニーズに合わせた柔軟な働き方が選択可能となってきました。

③ 働き手の就業観の変化

転職市場においても、企業選びの軸が確実に変わっており、働きやすさや生活の質的向上を、給与やポジション等と同等に重視する人が増えています。また、働き手の退職の引き金となる要因が、ワークライフバランスに加え、組織や上司から価値あるものとして評価されているか、所属実感があるか 等が上位に挙げられていることからも、「内的充実」が従業員定着のカギとなって来ていると言えるでしょう。
これらの環境変化を踏まえ、企業も「選ばれる会社」へと変わっていかなければなりません。従業員が一社に忠誠を尽くす時代は終わり、従業員も自身の就業観に沿って会社を選択する時代へと変化してきました。そして従業員が内的充足を求めるように変わりつつあるため、一瞬一瞬の「体験」を充実させていくことが、非常に重要です。
そこで、社員体験を充実させるために、「Work」「People」「Community」「Life」の4つのエンゲージメントをご提案します。これらのエンゲージメントを高めていくためには、またウェルビーイングな組織をつくるためには、メンバーの自己決定をいかに尊重するかがポイントとなります。幸福を感じるポイントは、その人ごとに、またライフステージごとに変わるため、4つのエンゲージメントについて、本人以外の「誰か」が決めるのではなく、本人自身の自己意思による決定を尊重することが非常に重要です。

2.社員体験を充実させる4つのエンゲージメント

① Work(仕事):夢中になれる仕事そのもの

ワークエンゲージメントとは、仕事に対してポジティブで充実した心理状態を持つことを意味し、次の3つが揃った状態を指します。
・没頭:仕事にやりがいや誇りを感じている
・熱意:仕事に熱心に取り組んでいる
・活力:仕事から活力を得て活き活きとしている

ワークエンゲージメントを高める方法は、以下の2点です。
(1)自分らしい仕事に取り組んでもらう(ジョブクラフティング)
ゴールに至るまでのプロセスについて、その人なりのやり方を奨励し、自己決定によるオーナーシップを持たせることや、仕事そのものの解釈を拡げ、仕事の視座を引き上げることで、自分らしい仕事になり、仕事への愛着が深まっていきます。
(2)仕事の意義・意味を内省してもらう
仕事に意義や意味を感じている人は、ワークエンゲージメントが高く、行動の質も異なります。上司の立場としては、自身の体験や価値観・信念、また顧客や他部門へのインパクトや価値を伝えることにより、メンバーに仕事への意義・意味のインプットを蓄積させると同時に、本人にそれらを問い、内省が進むように仕向けます。このように「語る」と「問う」を繰り返すことで、本人の内省が進んでいきます。

②People(人):相互に敬意を持てるパートナー

ピープルエンゲージメントとは、他者との交流・関係性からポジティブな感情を持てていることを意味し、次の3つの関係性が揃った状態を指します。
・信頼:公正で尊重されていることが実感できている関係
・成長:相互に刺激を与え合い、成長し合える関係
・親和:親しみと調和のとれた良好な関係
仲良しであれば良いということではなく、発展的な関係、すなわちお互いに強い信頼で結ばれ尊重し合っている関係であることが大前提です。かつてはオフィスに集まることが当たり前だったため、自然発生的に関係性が育まれましたが、働き方が大きく変化した現在では、組織が主導して職場環境の関係性つくりを行う必要があることを理解してください。

ピープルエンゲージメントを高める方法は、以下の2点です。
(1)心理的安全性を確保し、話しやすい職場をつくる
心理的安全性とは、素直に発言し、懸念やアイデアを話すことによる対人リスクを、人々が安心して取り除ける環境を意味し、心理的安全性の高い組織をつくるためには、「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「多様性の受容」の4つのポイントを備えることが重要です。また、心理的安全性が高い組織を作るためには、メンバーを温かく包み込む「インクルーシブリーダーシップ」が必要であり、「雰囲気づくり」「非完璧主義の受容」「意見の引き出し」等が大切となります。上司や同僚の方と良好な関係性を築くことは、組織の居心地の良さを実感することに繋がります。そのために、リーダーや上司の方には、このインクルーシブリーダーシップを実践することを促しましょう。
(2)ポジティブなフィードバックを職場全体で増やす
人は無意識的に完全であることを望み、不完全な部分や未熟な部分に強い印象を抱きます。そのため、ネガティブなフィードバックに繋がりがちとなり、必ずしも良好な人間関係には繋がりません。感謝を示し、褒めることを奨励することで、ポジティブなフィードバックが職場内で増えていきます。良い面を積極的に伝えることで、本人が他者との良い繋がりを実感することが増え、ピープルエンゲージメントは高まります。

③Community(共同体):誇りの持てる組織

コミュニティエンゲージメントとは、コミュニティに対してポジティブな結び付きを実感すること、会社というコミュニティの中で、次のようなポジティブな感情を持てている状態を指します。
・帰属感:コミュニティに対して居場所を感じられる
・共感:コミュニティの方向感に共感を覚える
・信頼:コミュニティに対する信頼感を持てる

コミュニティエンゲージメントを高めるには、以下の2つの方向性があります。
(1)会社全体との結び付き
会社全体との結びつきを高めるためには、ビジョンやパーパスが重要です。会社のめざす方向感への共感が組織に対する誇りや愛着に繋がります。ビジョンやパーパスが機能するためには、「従業員が心躍らせるビジョン・パーパスがあること」「全ての意思決定がビジョン・パーパスに沿ったものであること」「従業員がビジョン・パーパスを身近に感じられること」が条件として挙げられます。
(2)多様な社内コミュニティとの結び付き
多様なコミュニティを創るための仕掛けとして、縦の関係だけではなく、メンターやバディといった横や斜めの関係を公式に定めてフォローすることや、人同士が知り合い、繋がるきっかけとなるイベントや交流会などの場を増やすこと等が重要です。

④Life(生活):充実したプライベートライフ
ライフエンゲージメントとは、プライベートにおける“生きがい”で、満足感を得られている状態です。会社で働くことと、自らの人生における重要なものが両立していることを指し、会社で働くが故にプライベートを犠牲にしているという感情を持たずにいられる状態のことです。かつては仕事かプライベートかの二者択一的な選択肢しかありませんでしたが、仕事もプライベートも両立が出来る環境へと変化している現在、仕事自体も選択肢が増加し、プライベートの充実が様々なアイデアを生み、仕事にも繋がっていきます。

ライフエンゲージメントを高めるポイントは、以下の3点です。
(1)選択肢があること
柔軟な働き方は、ライフエンゲージメントを高めるための大前提となります。働く場所や時間についての一定の柔軟性があることが必要です。
(2)チーム単位で合意したルールを持つこと
組織の最小単位(チーム)で、メンバーの事情をもとに、生産性を落とさないためのルールを定めることが望ましいと考えます。個々の事情に配慮しながら、集まる必要性や頻度などについて基本的なガイドラインを持ち共有しましょう。
(3)個々人の意思を開示すること
個々人ごとにプライベートで重要視するポイントは異なります。そこでの物事の良し悪しは、人それぞれのため、個々人の意見が出来る限り明確になっていることが望ましいのです。

3.まとめ

(1)世の中の構造は大きく変わり、「従業員から選ばれる会社」になることが必要になりつつある。
(2)従業員から選ばれる会社になるためには、ひとつひとつの体験が充実している必要がある。
(3)従業員体験を高めていくためには「Work」「People」「Community」「Life」の4つのエンゲージメントが重要である。
(4)これらは、誰かから決められるものではなく、従業員自身が自己決定していくことが肝要である。
(5)従業員体験は、自然と生まれるものではなく、会社が環境を整えていかねばならない。
(6)従業員の「幸福な体験」をいかにプロデュースしていくかが成否の分かれ目となる。

講演後には参加者から多数寄せられた質問に、加藤氏が一つひとつ丁寧に回答しました。最後に加藤氏から「社員体験を通して、皆様の会社がより良い方向に進むためのヒントに繋がれば嬉しく思います」とコメントを頂き、本フォーラムは終了しました。

◎フォーラムを終えて

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    グラフ
  • 参加者の意見・感想は・・・

    普段からエンゲージメントに関心があったが、何から学んで良いものか分からなかった。今日のセミナーをきっかけに加藤氏の書籍を拝読することから始め、より学びを深めていきたい。また心理的安全性の意味を履き違えている人が多いということに気が付くことが出来た。「大丈夫、大丈夫」とただただ優しさが浸透している環境ではなく、率直に発言したり、懸念やアイデアを話すことによる対人リスクを感じず、人々が安心して話し合える環境をつくることであることを、一人ひとりがしっかりと理解し歩み寄ることが大切だと思った。質疑応答時の加藤氏の返答に温かさを感じ、とても勉強になった。 普段から考えていることを、専門的見地から説明していただいたので、自分の頭の整理になった。後程資料を拝見して、更に理解を深めたい。 当社にとって、エンゲージメント向上は重要な課題であり、とても参考になった。一方で、一番の悩みどころは「エンゲージメントは十人十色」なので、どこを(誰を)ターゲットにエンゲージメントを向上させるかという点。選択肢を増やすということは言うは易しで、実際には優先順位を付けながらの対応が求められる。まずはハイパフォーマーをターゲットにするのかどうか・・・。悩みどころです。 社内で「従業員に良質な体験を」という話になると、研修や異動のことばかりに着目しがちだったが、そうではないことがわかった。上司からの問いかけの質を高めることや、自己決定をしてもらうこと、仲間づくりの「場」をつくること等も、人事の役割であると聴き、確かにそうだなと思った。書籍も読んで、更に学びを深め実践していきたい。 社員の自己決定を尊重するためには、会社も柔軟な経営が必要だと感じた。柔軟な経営をすれば、社員が自己決定できるようになるのかは、鶏と卵の関係のような気がするが、まずは始めないといけないと思う。 当社は、今年度からエンゲージメントサーベイを導入し、改善策に着手したところ。エンゲージメントは簡単に改善できるものではなく、長期的に試行錯誤しながら取り組んでいくことになるが、本日の講義はたいへん参考になったので、資料を上層部にも共有したいと思う。 ある意味ではフワッとした?今回のテーマについて、具体的な事例を交えながら、分かりやすく説明していただいたので、よく理解できた。社員から選ばれる会社になるために、ついつい外的なものに目が行きがちだが、本質を見失わないようにとの説明に納得した。「人的資本情報の開示」など、昨今は新テーマが目白押しだが、一つひとつの言葉に踊らされることなく、しっかりと自社の戦略を考えていきたい。 セミナー内容も分かりやすくまとまっていたが、Q&Aの時間も大変参考になった。指示待ち症候群に対し、小さなステップを踏んであげるというアプローチは、ぜひ実践したいと思う。また問いかけが大切という点は、最近実感しているところであり、原体験からの価値観の深堀りなど、相手の思考の深耕や成長を問いかけにより促していければ良いなと考えている。 エンゲージメント部門が自社にあるため、具体的な取り組みやその効果について理解が深まると同時に、社員自らがエンゲージメントを高めるために行動すべき部分も多分にあることを学んだ。 エンゲージメントを向上させるためには、Work、People、Community、Lifeの4つの視点からの取り組みが求められる点は、非常にわかりやすく、今後の取り組みの参考となった。また、選択肢を作ることの重要性や、きっかけを作るための場づくりが必要となることも、今後の施策検討の際に考慮したい。 エンゲージメントの定義に関する理解もさることながら、管理職としてご説明いただいたような行動が自ら取れるよう、常に心掛けたい。 エンゲージメントの重要性が高まり、「人」として本質的な欲求を理解し、アプローチが出来るかが問われてきていると思う。組織としてのミッション・バリューの体系に加え、メンバーと接するマネジャー一人ひとりの人間性と成長という両輪に、バランスよく取り組んでいく必要性を感じた。 4つの切り口でエンゲージメントと向上のための施策を整理してもらい、自社での今後の対応にもつながる示唆となった。 具体的な視点(切り口)と客観視できる定量データを交えた説明で、非常に分かりやすく参考になり勉強になった。 会社におけるエンゲージメントというテーマだったが、自組織や個人に落とし込んでも参考になる点が多かった。会社としての組織づくりの参考にさせていただきたい。 たくさんの質問に最後まで懇切丁寧にお答えいただき感謝したい。まさに“インクルーシブ”な受け答えに感銘を受けた。 心理的安全性をどうしたら高められるかについて一般的な例示があったが、今後、更に具体的な例示をいくつか出して頂けると、実践できる場面が増えるのではと感じた。 エンゲージメント等は、HRがリードをとり頑張るということではなく、マネジメントがリードをとって実践・対応しない限り、Workしないと思う。どうやってマネジメントにその重要性を理解してもらい対応してもらうのかは、常に課題となる。 労働市場から選ばれることも大事だが、会社の価値観や文化に合致した人(心理的距離が近くなりやすい人)を選ぶという点も、同じく大事なのではないかと感じた。
  • 登壇者の感想は・・・

    組織人事コンサルタント 加藤 守和 氏

    組織人事コンサルタント 加藤 守和 氏

    「今、会社と社員の関係性は大きく変わりつつあります。“社員に選ばれる職場”になるための近道はありません。ワーク・ピープル・コミュニティ・ライフの4つのエンゲージメントに関連した豊かな社員体験を一歩一歩積み重ねることこそが、社員の人生・キャリアの充実感に繋がり、社員の求心力を高めます。今回のフォーラムが良いきっかけとなり、多くの“選ばれる職場”が生まれることを願っています」