ホームセミナーセミナーレポートオンライン公開講座 2023年7月4日

セミナーレポート

オンライン公開講座

企業価値を高めるための「人的資本経営」が
今なぜ投資家から注目されているのか

アセットマネジメントOne株式会社 エグゼクティブESGアドバイザー 寺沢 徹 氏
コーン・フェリー・ジャパン アソシエイト クライアント パートナー 酒井 博史 氏

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人的資本は、企業の将来の成長可能性に深く関わり、企業価値の評価や投資判断に影響するため、投資家も大きな関心を持っています。
今回の公開講座では、投資家サイドからアセットマネジメントOneの寺沢徹氏をお招きし、投資家の視点から、人的資本経営についてお話をいただきました。以下は講演と対談の要旨です。

【PART1】 「投資家の視点から、これからの人的資本経営に望むこと」
アセットマネジメントOne 寺沢 徹 氏

アセットマネジメントOneは、2016年にみずほ信託銀行の資産運用部門とみずほ系の資産運用会社3社が合併し設立され、アクティブ運用よりパッシブ運用の割合が大きいことが特徴です。2016年当時、パッシブ運用はコストダウンや効率性追求等が主な課題であったため、議決権行使やエンゲージメント(=投資先企業との建設的な対話)はあまり重視されていませんでした。しかし、半永久的に株式を保有することから、アセットオーナー等も関心を集め、パッシブ運用の観点からもこれらの活動を重要視するようになってきました。このような時期に設立された当社は、パッシブ運用に力を入れ、ESGアナリストを置き、独自のビジネスモデルにより、インベストメントチェーン全体に働きかけて来ました。この活動をESGインテグレーションとして、アクティブ運用や債券等、運用全体に拡げ、更に2020年度より「投資の力で未来をはぐくむ」ことを全社的な取り組みとして、サステナビリティ活動に展開して来ました。その際にマテリアリティマップを更新し、社会や環境に関するグローバルな課題をプロットし、重要視する9つのコア・マテリアリティを「気候変動」「生物多様性と環境破壊」「人権と健康・ウェルビーイング(=人的資本)」の3つのフォーカスエリアにまとめました。
この30年間、日本は他の先進国に比べ一人当たりのGDPも伸び悩み、平均賃金もほぼ横ばいの状態が続いていました。これは日本企業が人件費等を投資として見て来なかったことが最大の要因だったのではないかと考えます。昨今の人的資本に対する関心の高まりは、海外の人権や差別に注目する流れから始まり、国内における人材版伊藤レポートや内閣府の開示令等により“開示”に対する関心が高まっていることにあると思います。我々投資家サイドでは、まずは企業存続の前提としての必須の取り組みや、企業価値を高める取り組み等の開示情報、それらの施策をどのように実行していくのかといった戦略を見させていただき、それらが中長期的な企業価値の創造にどのように繋がっていくのかという観点で、企業経営者と対話をさせていただいています。人材版伊藤レポート2.0で示されている3つの視点と5つの共通要素は、実際に人事の方々が中心となって実行されている取り組みそのものが、企業価値向上に繋がるという点においても、非常に重要なポイントです。内閣府の人的資本可視化指針の開示項目には、「価値向上」と「リスク」に関する開示の双方が含まれていますが、企業は、どのような開示ニーズに対して、当該事項を選択し開示するのか明確にしながら、開示を進めることが望ましいと考えます。
当社(アセットマネジメントOne)では、サステナビリティレポートの中に人的資本経営に関する項目を開示しています。その中でも今回開示項目に指定された階層別の男女別賃金格差に関しては、非常に悩ましい部分であり、決して胸を張れるような数字ではありません。ですが、その現状に対して、どのような取り組みや対応をしているのかといった情報も併せて示しています。投資家サイドも始めから完璧な数字を求めている訳ではないため、どのような打ち手で問題解決に向けて臨むのかという姿勢を示すことが、大きなポイントになるのではないでしょうか。また例えばエンゲージメントスコアに関しては、投資家視点からも、他社比較をすることがなかなか難しい項目です。企業ごとに重要視する項目も異なるため、各社での重点課題の項目に対しての打ち手や解決策、また過去からの推移等をしっかり示していくために活用することが得策であると考えます。
さて「投資家」は、大きく以下3つに分類することができます。

① アクティブ運用(ジャッジメンタル)
⇒運用担当者判断で投資先を決定。経営方針と共に人的資本を語ることがポイント。
② アクティブ運用(アルゴリズム判断)
⇒データによる自動判断。ESGデータ等を重視するため、情報開示がポイント。
③ パッシブ運用
⇒投資先選定はしないものの、議決権を多く保有し、企業の幹部層の方々との対話を通し、様々な取り組みを依頼。

このように「投資家」にも「お客様」同様に様々なタイプがあるため、一括りにせず、どのような投資家に対して、何を目的に、どのようにアピール(開示)するかが、非常に重要となります。

【PART2】 対談 「人的資本経営への取り組みを、投資家はどのように評価するのか」
アセットマネジメントOne 寺沢 徹 氏
コーン・フェリー・ジャパン 酒井 博史 氏

続いて、人的資本経営や人材戦略・人事施策について数多くの企業を支援されてきたコーン・フェリー・ジャパンの酒井博史氏(インタビュアー)と寺沢氏との対談形式により、本テーマを様々な観点で掘り下げました。

Q1.人的資本経営をめぐる昨今の様々な潮流・動向は、投資家視点からどのように感じるか?

これまで「門外不出」だった人事に関する情報が脚光を浴びていることに関しては、非常にポジティブに捉えています。一方で、コーポレートガバナンスコードが細分化されていくことにより、形式的な対応に終始してしまっている企業もあるのではないでしょうか。ガバナンス体制をしっかり整え、経営戦略を回していくためには、経営戦略と人材戦略がしっかり連動した人的資本経営が非常に重要です。実際に経営者と投資家との対話の場面においても、人的資本の内容に関するテーマでは、経営戦略とどのように連動しているのかという点で議論が白熱します。この点からも、自社の戦略の実効性が担保されているか、そしてその内容を如何に対外的に説明していくことが出来るかが非常に大切です。

Q2.日本企業の人的資本経営に関する取り組みは、緒に就いたばかりだが、投資家の期待や課題はどのようなところにあるのか?

伊藤レポート2.0の3つの視点も非常に大切で、「人材ポートフォリオ」や「必要な人材の要件定義」にも企業価値向上の観点から着目しています。人材を可視化し、どのように選定し、育成・登用していくのかは、経営戦略そのものと言っても過言ではありません。これらは企業の根幹に関わる部分であり、お金だけではなく、時間も含め投資をしていくに値する領域だと考えます。企業独自の考え方を盛り込みながら、いかに対外的に説明出来るかがカギとなってくるのではないでしょうか。

Q3.人的資本経営に取り組む企業の本気度は、どのような点から判断しているか?

企業経営者による人的資本経営への取り組みの説明から判断します。対話やインタビュー、また各社の統合報告書やホームページ等の情報を通して、その企業の重点課題を経営者が自身の言葉で語っているか、また経営者と幹部との熟議の末の会社の方向性や経営戦略になっているのか、このあたりがポイントになると思います。また特に新規事業については、本当に必要な事業・人材であれば、必ずしも社内人材のみで賄おうとするのではなく、場合によっては外部からプロフェッショナル人材を採用する等、人材戦略をCEO・CHROが本気で語り合い、最適なフォーメーションを考えているかという点も判断軸のひとつです。

Q4.人的資本開示において、様々なタイプの投資家に対して企業が意識すべき点はなにか?

アクティブ運用(ジャッジメンタル)のタイプにおいては、経営戦略と人材戦略の連動や整合性、企業価値創造モデルを納得のいく形で語れるかという点は非常に重要です。男女賃金差や研修時間・人材投資等の項目に関しては、数字だけの開示のみでは不安に感じてしまうこともあるので、その理由や今後の対策等と共に開示してもらえればと良いと思います。開示の内容を求められる場合には、戦略をストーリーで示す。ESGスコアの観点では、内容・項目・ボリュームで示す。どのようなタイプの投資家と向き合うかによって打ち手が変わってくるため、明確な意図を持って開示に取り組むことが大切です。

Q5.人的資本開示の好事例や悪い事例の特徴は何か、また数値化されたKPIは不可欠か?

統合報告書におけるダイバーシティや福利厚生等は確かに大切なポイントではありますが、取り組まれていて当然であることも否めません。その意味においても、誰に向けて何をアピールするのかといった視点が非常に重要です。KPIは、各社での重点的な経営戦略と連動してくる指標です。いつ頃までにどの数値をどう変えていくのか。そのために何をするのか。KPIの選び方も含めて、何をめざしていくのかを上手く選定していただきたいと思います。

対談後には、参加者から寄せられた質問に両氏が丁寧にお答えいただき、最後に参加者の皆様へ以下のメッセージを頂き、終了しました。

■寺沢氏
投資家の多くは人事のプロではありません。皆様の取り組みを真摯に見させていただきながら対話を重ねていくことで、お互いの理解が深まれば嬉しく思います。

■酒井氏
人事の機能としては、試行錯誤をしながら、投資家の皆様と対話をしていくステージに向かっていくのではないでしょうか。その意味でも、人事の専門性の中に閉じこもらず、経営戦略や市場をしっかりと捉えながら、より広い枠組みへと人事の機能がシフトしていく時代を迎えたのではないかと感じました。

◎公開講座を終えて

  • 公開講座の内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    グラフ
  • 参加者の意見・感想は・・・

    今まで内向きな存在であった企業内人事は、社内だけでなく社外からもよりオープンな存在に変革することを求められているため、固定観念を捨て、新たな人事像を創り上げて行く時期だと思う。 当社の強みをどのような指標で、どう整合付けて伝えるか、経営陣としっかり話し合い取り組んで行きたい。 戦略の実行力という視点で、人的資本に関心を持たれているという話、それをどのようにストーリーとして伝えていくかという点、オムロンの事例など、とても参考になった。 投資家のタイプの違いによる視点の違いや、期待事項の差異について具体的な説明があり、理解が深まった。 人的資本開示を投資家からの視点で考えることにより、本質をしっかり押さえた開示に繋がることを学んだ。 人的資本の捉え方を、自社の社員が『自分ごと化』するために、経営者と人事の連携が必要ということが良く理解できた。そのために、まずは企業理念の浸透や企業文化の醸成に努めたい。 資本家サイドの方からは、守秘義務の関係もあり、本音の話は聴けないのでは?と思いながらの参加だったが、寺沢氏からご自身の実感を込めた様々なお話を伺い、たいへん参考になった。 人事部門を担当すると同時に、IR部門も担当しているので、投資家からの人的資本に対する目線が理解でき、とても参考になった。 当社が開催するIR Dayでは、ESG全般について説明を行うものの、投資家の関心は気候変動に関わる対応に集中しており、人材戦略担当としては寂しい思いをしている。マテリアリティマップも気候変動が最上位に位置付けられていたため、その点では納得せざるを得ないが、社内の動きの悪さをこのようなマップを利用して変えていきたいと思っているので、寺沢氏が答えていただいたような日本をターゲットにした取り組みを期待している。 投資家を招いたセミナーは、たいへん有意義だった。特に当社ではホールディングスからの情報はあるが、傘下の事業会社は独立した事業戦略・人材戦略を展開しているものの投資家との直接の接点はないため、本日のお話はとても参考になった。 投資家視点での人的資本経営の議論が参考になった。今回のような形式で人事目線にこだわらない企画をこれからも用意していただけるとありがたい。
  • 登壇者の感想は・・・

    アセットマネジメントOne 寺沢 徹 氏

    アセットマネジメントOne 寺沢 徹 氏

    「人的資本は人権・差別・福利厚生・研修などESGのS(社会)の分野での取り組みは当然として、特にアクティブ運用の投資家は次世代のリーダー選定など、所謂「人事運営」をG(ガバナンス)や企業経営の根幹を担う重要なアジェンダと捉えて注目しています。対応ではなく、長期視点での真摯な取り組みのアピールを期待しております」
    コーン・フェリー・ジャパン 酒井 博史 氏

    コーン・フェリー・ジャパン 酒井 博史 氏

    「人的資本経営の実践を日々支援する身として、一様ではない投資家のニーズに向き合いながら、経営戦略の実効性を担保する人材戦略づくりの重要性を再認識しました。安易に正解を求めず、皆さまと一緒に知恵を絞りながら、投資家との本質的な対話に繋がる取り組みとなるよう、お手伝いできればと思います」