キャリア支援/キャリア相談体制をスタートさせるには?
ユースキャリア研究所 代表 セルフ・キャリアドック導入支援アドバイザー 高橋 浩 氏
サントリーホールディングス株式会社 HR本部 キャリアサポート室長 斎藤 誠二 氏
株式会社博報堂 人材開発戦略局 マネジメントプラニングディレクター 木村 英智 氏
日本生命保険相互会社 人材開発部 調査役 キャリア支援課長 松尾 宏 氏
パナソニック コンシューマーマーケティング株式会社 CE本社 スキルアップ推進課 課長(兼)スキルアップグループ部門長 米林 一郎 氏
株式会社パソナ 官公庁事業部 キャリア形成サポートセンター事業 導入コンサルタント 原田 利菜
今回のセミナーは、これからキャリア支援/キャリア相談体制を構築しスタートさせるには、どんな準備が必要か?どんな点に気を付けたらよいかを学ぶカリキュラムで、座談会形式にて4社の具体的な取り組み事例をお話頂きました。
キャリアコンサルティングの目的が「企業内の人材育成」から「個人のキャリア支援」にシフトしつつある現在、各社の事例はそのための大切なポイントを得る機会となりました。
基調講演では、ユースキャリア研究所代表の高橋浩氏が「キャリア面談を実施すると、離職を促してしまう!」「それがなんの儲けに繋がるの?」など、キャリアコンサルティングに対する誤解が残念ながら現在もなお存在していることを指摘。昨今の社会変化に伴い、個人のキャリア観は大きく変わり、会社が提供するキャリア支援は、従業員の管理と保証から、従業員の自律と協働へと移行しており、個人と組織がWin-Winとなる機会と環境の「場の提供」が必要であるとお話しされました。
個別面談重視で個人の悩みを解決するという「待ちのキャリア支援」から脱却し、社内の関係者と常に相互連携し、継続的に社員の成長を開発する「攻めのキャリア支援」が大切となること。また、仕事の意味や意義の再構築によって働きがいを醸成する「ジョブ・クラフティング」は、自らが積極的に担当する仕事を「デザイン」することで仕事への愛着が高まり、エンゲージメントが向上し、生産性が高まることを力説されました。
そして、従来型の単なる個人の支援体制から脱却し、組織の生産性向上に寄与できるようにするため重要なポイントを、以下の5項目にまとめ、解説して頂きました。
1.新時代に応じたキャリア観・キャリア支援に立脚する
2.ジョブ・クラフティングによる「働きがいづくり」のサポート
3.社内連携とソフト面重視による「働きやすい職場づくり」
4.集団分析と改善提案で「継続的人材育成の仕組みづくり」
5.個人と組織との適合(シナジー)を目指す
また後半の座談会では、キャリア形成サポートセンター事業の導入コンサルタントであるパソナの原田利菜の進行により、4社が進めているキャリア支援の仕組みとその効果について、忌憚のない意見交換が行われました。以下は、その主なコメントです。
■サントリーホールディングス 斎藤 誠二 氏
HR本部キャリアサポート室は設置して14年目。人事部内の専門チームとして相互に連携し合って施策を展開。専任社員の他に「隣のお節介おじさん/おばさん」という、いわゆる面倒見役の兼務スタッフが、あらゆる世代のサポートを実施。全管理職向けに「キャリアビジョン面談の準備やそのやり方」をオンラインで実施したところ、驚くほどの高評価が得られ、社内でのキャリア開発が一歩ずつ前進していることを実感している。
■博報堂 木村 英智 氏
キャリア支援機能がある人材開発戦略局は、人事局とは別の部門。全スタッフが兼任体制で運営し、幅広い対象層をサポートできる体制。社員一人ひとりが「そもそも自分がやりたい仕事は何か?それに紐づいた仕事は何か?」をオーダーメード感覚で考え、会社の成長と個人の成長を同時に実現することをゴールとしている。キャリア相談等を実施した直後には、必ず匿名アンケート等の効果測定を実施し、経営層からの「人材育成が会社経営にどのように影響をしているのか?」という問いに対し、いつでもフィードバックできるようにしている。
■日本生命保険 松尾 宏 氏
自分自身、定年再雇用でキャリア支援チームにて仕事をすることになった。現在は全社員の9割を占める女性の内務職員への支援が中心であり、育児と仕事の両立や、自身のキャリア形成の方向性の相談を主として実施。チームで運営しているキャリア支援ポータルサイトには、キャリア読本や、ワンポイント講座等、充実したコンテンツを提供している。中でも「職場職務紹介サイト」は、社内の全職種を網羅した情報を掲載し、社内異動時の不安を払拭する重要な情報源として有効活用されている。
■パナソニック コンシューマーマーケティング 米林 一郎 氏
2018年に部署を立ち上げた後、2020年にセルフキャリアドックを導入する際、キャリア自律に対する関心がまだ低い経営層をどう説得するか?という課題に直面した。解決策として「部下の面談力を上げる研修」という切り口で実務に役立つという文脈で経営層を説得し、承認を得て実施したが、とても好評で、結果として全社的にキャリアに関する関心が高まった。この経験から ①まず身近なところで正解実績を作る ②経営幹部に直談判し、巻き込む ③実務に役立つ内容にする という3点の重要性を実感した。
■ユースキャリア研究所 高橋 浩 氏
キャリア支援を推し進めるにあたり、働く個人の問題なのか?働く環境の問題なのか?を識別し、個人の支援と共に、組織や制度の改善等のフィードバックを実施し、働く人と職場環境が良くなっていく仕組み作りがより重要になってきた。面談中心のサポートだけでなく、それ以外の活動もキャリアコンサルタントには求められることを是非知ってほしい。
◎セミナーを終えて
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セミナーの内容は参考になりましたか
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参加者の意見・感想は・・・
各社の課題感がよくわかった。当社でも活動の幅を拡げていくにあたり、得た情報をどのように活かしていくか、目的をしっかり定めたい キャリアコンサルティングを企業内でどう活用していくか、非常に有益な情報を得ることが出来た。当社の仕組みにどのように組み入れられるかを検討し、行動に移したい 高橋氏の組織的集団分析の概念が腹落ちした。セルフキャリアドックを1on1の関係に終わらせることなく、組織全体に機能させ、生産性向上や事業の拡大に貢献するよう、PDCAを廻すことを考えたい キャリア支援の取り組みは、ダイバーシティ&インクルージョンの推進にも通じ、非常に参考になった 組織へのアプローチ法等、高橋氏の講義が、とても参考になった。またパネリストからの各社ごとの具体的な取り組み内容も、それぞれ特徴があり、たいへん興味深かった とても貴重なセッションだった。登壇された方々の具体的な取り組みの様子がよくわかり、刺激を受けた。特に、パナソニック社の具体的なスタートダッシュや実例から多くのことが学べた 当社は今後、キャリアカウンセリング組織の立上げを検討する段階にあり、国家資格取得と並行して進める必要があることを理解できた 各社が取り組んでいるキャリアカウンセリングについて、複数企業の話を一度に聴け、各社の違い等もよくわかった。企業事例紹介は、今回のように複数社の取り組みを比較しながら聴けると、とても参考になる 当社も成果の評価や告知活動に悩んでおり、各社の取り組みに共感するとともに、たいへん参考になった。本テーマでの定期的な情報共有の場を設けてもらえるとありがたい 当社もキャリア施策の導入を検討中だったので、キャリアコンサルティングの重要性、導入までの手順、各社の取り組み事例は、非常に参考になった。当社でも意識が高い社員は自発的に取り組んでいるが、キャリアに対する意識がそれほど高くない社員へのアプローチ方法に頭を悩ませている。そのような点から他社事例を聴ける機会がまたあると、うれしい -
登壇者の感想は・・・
ユースキャリア研究所 高橋 浩 氏
「参加者の所属企業により、企業内キャリアコンサルティングの理解度や導入レベルに違いがあったように思いました。その点で、もっと充分な説明をできれば良かったと思います。このセミナーを通じて、企業内キャリアコンサルティングは、単なる面談実施ではなく“人と満足と経営に資する諸活動である”ということや、その実現のために、キャリアコンサルタントが果たすべき多様な役割があることが、皆様に伝わったならば幸いです」サントリーホールディングス 斎藤 誠二 氏
「今回のセミナーには、設立時期や進捗段階が異なる企業が集まりました。当社はたまたまその中で立上げが早い方ですが、他社の皆様のお話を伺い、あらためて先人の苦闘や尽力に思い至りました。思うに、キャリア支援組織の立ち上げは目的ではなく、始まりに過ぎず、いかに働き手のための支援を継続し進化させていくかに尽きるというのが、今回のセミナーを通じた率直な感想です」博報堂 木村 英智 氏
「皆様からのお話やご質問を伺い、“キャリア”という言葉の捉えられ方が多種多様であるが故に、施策の意義や目的を定義しておくこと、また必要に応じて進化させることが非常に重要であると再認識しました。今後も、皆様と情報交換をさせて頂きながら、より良いキャリア自律支援を模索し続けたいと思います」日本生命保険 松尾 宏 氏
「当社のキャリア支援組織は5年目に入りましたが、キャリア自律をどう浸透させていくか、深化させていくか、という引き続きの課題があり、まだ道半ば、途上の段階です。一足飛びに完璧な仕組みを作るのは難しい面もあると思います。業種や会社の文化によって解決方法は異なると思いますので、仕組み等を参考にされる場合、その点に留意された方が良いかと思います」パナソニックコンシューマーマーケティング 米林 一郎 氏
「当社はセルフキャリアドックを導入したばかりですが、キャリア面談を体感した部長職社員から『自分を見直せ、部下マネジメントの意識も変わった』などの嬉しい反応も出ています。今回のセミナーを通じ、キャリア支援を普及させるためには、具体的な成果や効果を示すことが重要だと学びましたので、これからも社内の成功事例創出に注力していきます」パソナ 原田 利菜
「パネリストの皆様から貴重なお話をお伺い、キャリア支援制度は導入だけではなく、組織や従業員の課題変化に合わせて常に改善していくことが重要であると改めて感じました。従業員の皆様が働きがいを感じ、企業成長につながる、そんな各社の仕組みづくりを今後もご支援します」